石川祐希、再びイタリアへ。「海外でプロになるのも道のひとつ」
バレーボール男子全日本代表のエース石川祐希(20)が8日、中央大学で記者会見し、2回目の海外挑戦を行なうことを発表した。形式は前回と同じく12月のインカレ(全日本大学選手権)終了後から3月31日までの短期派遣。派遣先は昨シーズンセリエA8位のラティーナだ。オリンピック世界最終予選(OQT)の後、初戦で対戦したベネズエラ代表監督で、今季からラティーナの監督に就任するビンチェンツォ・ナッチ氏から直接オファーを受けた。
石川は昨年のワールドカップ終了後にも、「また海外に行きたい」と中大・松永理生監督に相談していたが、オリンピック世界最終予選にベストを尽くすため、全日本活動に集中するよう説得されて、昨シーズンはあきらめた。今季はOQTの結果にかかわらず必ず行こうと決心していたが、五輪切符を逃したことで、その思いはより強固になった。
「高さとパワーは海外でなければ味わえない。リオ五輪に行けなかったことはダメージも大きいが、東京に向けて再スタートを切りたい。東京五輪では、一番上を目指す」
石川はこう意気込みを語った。
前回と違うのは、石川の意識と契約期間の柔軟性だ。前回は初めての海外修行と言うことで「挑戦」「経験」することが第一目的だったと石川は言う。今度は「経験」に終わらず、スタメンとして出場し、結果を出したいという意識に変わった。
前回加入したモデナはそのシーズン、コッパ・イタリアで優勝、リーグでは準優勝したほどの強豪で、世界各国の代表クラスが在籍し、石川にはほとんど出場機会がなかった。高いレベルの選手たちと練習して、プレーを目の当たりにしたことは大きな「経験」となったが、今度は実際に試合に出場して、自分をアピールしたいという気持ちが強くなった。ラティーナを選んだのはそれが大きな理由だ。フランスやドイツからもオファーはあったが、期間などの条件が折り合わず、また世界トップレベルのセリエAでやりたいということもあり、「スタメンで構想している」と監督が明言したラティーナに決めた。
「(モデナより)レベルは低いかもしれないけど、その分、出場機会は増えると思う。もちろん保証はされていないし、それよりも他の選手に実力で勝って出場することを自分も望んでいるので、シビアな環境だと思うが頑張りたい。試合に出場して、上位のチームを倒し、自分の存在をアピールしたい」
モデナに行ったころは、まだ大学卒業後にバレー一本でやっていくかどうかを決めかねていた。今は3年生になり、進路のことも真剣に考えるようになった。
「今は(卒業後は)バレーに賭けようと思っています。企業に入るか、海外でプロとしてやるかはまだ具体的には決めていないが、プロでやることも道のひとつとして意識するようになった。海外ではみんなプロでやっているので、その中で生活して、そのことについても考えていきたい。常にトップの環境でやりたい」
ラティーナとは今年の3月、学生選抜で遠征したときに親善試合を行なっており、知っている選手やスタッフもいるという。チームも今季は長らくイタリア代表で活躍したアレッサンドロ・フェイを獲得するなど、積極的に上位を狙っていくようだ。
もうひとつ、前回と異なるのが滞在期間。といっても現段階ではほぼ同じで、インカレ終了後から3月いっぱいの3ヶ月間なのだが、今回はこの期間が過ぎても、石川が望めばリーグ終了まで滞在を延ばすことも協議するという。これは大きい。
考えてみてほしい。たとえばVリーグで、開幕2ヶ月後に加入して、プレーオフが始まる前に離脱するという選手をメインで起用することができるだろうか? しかも、貴重な外国人枠を使ってまで。この件は以前、石川本人にもぶつけたことがあるが、困惑した表情で、こう答えた。
「そうですね......。でも帰国の時期については、自分ひとりで決められることではないんです」
前回のイタリア挑戦から帰国後に、そのシーズンのMVPが石川選手と同じ19歳(当時)のシモーネ・ジャンネッリで、石川と同じくレギュラーラウンドは出場機会が少なかったが、プレーオフから活躍し始めたということを告げた。石川は「そうですか......」とだけ短く答えて、いろいろと考えているようだった。
リオ五輪出場権を獲得できなかった今、自分以外にも海外でプレーする選手が増えてくれることを願っている。
「ほかの競技で海外移籍のニュースを見ると、いいなあと思っていました。海外のチームに所属して、練習を一緒にやって、生活もして、わかることがある。それをできるだけ多くの選手に経験してほしいと思います。自分はそれを発信して、パイプ役になれたらいいですね」
リオにも視察に訪れて、五輪ならではの雰囲気に肌で触れたいと語った。すべては東京で一番上を目指すために。できるだけのことはしておきたいという気持ちが伝わってくる。「史上最高の逸材」の新たな挑戦に期待したい。
中西美雁●文 text by Nakanishi Mikari