お酒の失敗談。数えきれないほど持っている人もいると思います。でも、本当にどうしようもないんだけど、なかにはどうしても憎めない、そんな人もいます。今回はお酒をこよなく愛した、ひとりの歌人のお話です。


酒と旅と故郷をこよなく愛した歌人・若山牧水



適度に楽しめば、ストレス解消にもコミュニケーションの潤滑剤にもなるお酒。
ですがその「適度」がなかなかに難しく、失敗してしまうことも多々、ありますよね。
現代だけでなく、昔の偉人たちもお酒では多くの失敗をしてきました。

そのうちのひとりが、明治生まれの歌人、若山牧水（わかやま・ぼくすい）です。
牧水は早稲田大学出身の歌人で、北原白秋、中林蘇水とともに「早稲田の三水」と呼ばれました。
彼が愛したのは「酒と旅」。
特にお酒に関するエピソードは、キョウレツなものばかりでした。

なんと、彼の1日に飲むお酒の量は少なくても一升。
家の中は徳利（とっくり）だらけで、酒蔵の様だったそう。
彼の酒豪は母親譲りで、なんとお母さんのニックネームは「一升酒（つぼ）」。
つぼ、とはお酒を際限なく飲む人のことを指す隠語です。
一度牧水がこの母親にお酒をやめようと相談したところ、「お前の身体は酒でできているようなものだから、やめてはいかん」と言われたとか。

酔っ払って線路で寝てしまうことがしょっちゅうで、電車を遅らせたこともあるという牧水。
こうしたことがきっかけで電車を止める人、「電留朝臣（でんりゅうあそん）」というニックネームがつくほどでした。
親子揃って、すごいあだ名です。

そんなお酒に呑まれ大変な日々を過ごす牧水ですが、故郷や自然をうたう素朴で素直な作品は、多くの人に愛されてきました。
ペンネーム「牧水」は、彼の最も愛する2つのものを組み合わせたもの。
牧場の牧に、水と書いて「牧水」。
「牧」は、つぼでお馴染みの大好きな母親の名前である「マキ」から。
「水」は、故郷の地を潤す「水」からとったものでした。
そして息子の名前は「旅人」と書いて「たびと」と付けました。
名前からも、ふるさとや家族、そして旅をとても大切にしていたのがわかります。

「白鳥は　哀しからずや　空の青　海のあをにも　染まずただよふ」
空の青にも海の青にも染まらず飛ぶ一羽の鳥。
破天荒ながらも自分の愛することを貫いた、白鳥のような、牧水です。

文／岡本清香

TOKYO FM「シンクロのシティ」にて毎日お送りしているコーナー「トウキョウハナコマチ」。江戸から現代まで、東京の土地の歴史にまつわる数々のエピソードをご紹介しています。今回の読み物は「酒と旅と故郷を愛した歌人」として、6月21日に放送しました。

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＜番組概要＞
番組名：「シンクロのシティ」
放送日時 ：毎週月〜木曜15：00〜16：50
パーソナリティ：堀内貴之、MIO
番組Webサイト：http://www.tfm.co.jp/city/