「(ベンチスタートが続いたがが)僕は常にいつでも試合に行ける準備をしていた。それに今日は途中から入ったマル(丸谷)がスライディングタックルでボールを奪ったり、持ち味を発揮していて、『俺ももっとやらなければいけない』と刺激を受けた」
 
 そして涙を浮かべたことについて、家族の悔しさをより具体的に説明していった。
 
「僕自身は好きなサッカーを毎日できているので、嫌な想いは一切していない。でも、家族は僕この状況を心配し、息子はストレスを溜めていたようだった。子ども達は僕が試合に出ていないので、あまり面白くなさそうにしていたのは事実。でも今日は上の子はカープの試合を観てから(鈴木の3ランホームランで、カープが4-3のサヨナラ勝ち)、スタジアムに来てくれていた。その目の前でゴールを決められたのは、素直に嬉しかった」
 
 
 佐藤はファンやサポーターから向けられる不安の眼も、少なからず感じ取っていた。
 
「家族のみならずサポーターの皆さん、特に11番のユニホームを着てくれている方たちは最近ずっとゴールがないなと気掛かりだったはず。だからこそ、ホームで決めないといけないと思っていた(今季決めている1点は、アウェーでの2節・名古屋戦だった)。そういった想いを、このゴールにつなげられた」
 
 そんな想いがあったからこそ、お立ち台での「俺はまだやれる」という発言につながったのだろう。

 加えて責任を感じていたのが、ベンチスタートで結果を残せていないこと。力不足を痛感していたと言うのだ。
 
「今日はマルや皆川が、求められた勝つための仕事をした。マルがチームに流れを引き寄せ、最後は皆川が身体を張って締めた。ベンチメンバーであり、広島の全員の力を示せた。だからこそ掴めた勝利だった。

 ただ、今季のサンフレッチェは、途中出場の選手がゴールを決めていなかった。上位陣をみると、そんなチームはない。そのあたりが上位に行けていない要因だったと思う。

 前節、(浅野)拓磨がようやく途中出場から今季初めて決めて(FC東京と1-1で引き分ける)、自分も続けられた。でも、僕も今季2点目にすぎない。一つひとつ積み重ねていきたい」
 
 大久保嘉人(166ゴール)に続く史上2位、J1通算159ゴール目。一つひとつのゴールに思い出があるように、今回の1点もまた特別な意味と価値を持つものとなった。
 
「いろんな想いを、このゴールに結び付けることができた」
  
 家族の想い、背番号11、控えやベンチ外のチームメイト――3つの悔しい想いを感じていた。だからこそ、お立ち台で、サポーターや家族が目に飛び込んできた瞬間に涙が自然と溢れ出した。
 
エース【ace】第一人者、絶対的または唯一無二の存在――。
 
 佐藤寿人のためにある言葉と言っても過言ではない。そしてヴィオラのエースは、彼自身が、そしてチームが一段と眩い輝きを放つため、次なるJ1通算160ゴール目を目指す。

 
取材・文:塚越 始(サッカーダイジェスト編集部)