未来の日本も気になるけれど、昔からある伝統もこれからの日本にしっかりと残していきたい！　というわけで今週は「東京老舗街歩き」と題し、東京にある「創業100年以上」の老舗にフォーカスしてご紹介してきました。最終回の今回は、日本橋から。なんと創業300年！　江戸っ子の必需品。ご飯のあとに使う、あの道具です。


楊枝専門店なのに、なぜ屋号は「さるや」なの？



思わせぶりで何か含んだようなハッキリしないものいいを「奥歯にモノが挟まったような」と言ったりしますが、比喩でも使われるように、歯に何か挟まったままなのは本当に気持ちの悪いものです。
そんなとき、私たちを救ってくるのはアイツしかいません……。
そう、「楊枝」です。

楊枝は、身だしなみを重要視した江戸っ子たちの必需品でした。
歯に何か挟まった状態をそのままにするなど、あり得なかったのです。
当時は化粧品店と同じくらいに「楊枝専門店」がたくさんあり、なんと一時期はおよそ250軒もあったとか。
そしてその楊枝屋は、多くが「さるや」と呼ばれていました。

猿は歯の色が白く、虫歯がなくて、楊枝の看板としてふさわしい。
そんな理由から屋号としてつけられるようになった「さるや」。
日本伝統の楊枝は、すべて「黒文字」と呼ばれるクスノキ科の植物が使われています。
この木は、石鹸や香料にもなるような香りのよい木で、口に含むとふわっといい香りがします。
もちろん手作りなので、職人が自ら削っている高級品。
江戸っ子は見栄っ張りだったので、「黒文字じゃないと楊枝じゃない」と言ってこぞって使っていたのだそうです。

時代とともに楊枝専門店の数は少なくなり、今では数えるほどになってしまいました。
ですが、現在も日本橋の「さるや」では、江戸からの伝統である黒文字の楊枝を扱っています。
創業300年。「たかが楊枝、されど楊枝」をモットーに、江戸の文化を伝承すべく繊細な職人技で作られている高級楊枝です。

箱や包装紙にもとことんこだわり、ひとつひとつに恋の歌が付いている「辻占（つじうら）楊枝」や職人の手書きによる名前入りの木箱など、思わずワクワクしてしまうものばかりです。
粋を極めるなら、「さるや」の楊枝。
プレゼントに、自分へのご褒美に。おひとついかがですか？

文／岡本清香

TOKYO FM「シンクロのシティ」にて毎日お送りしているコーナー「トウキョウハナコマチ」。江戸から現代まで、東京の土地の歴史にまつわる数々のエピソードをご紹介しています。今回の読み物は「楊枝ひとすじ300年！『さるや』」として、6月16日に放送しました。

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＜番組概要＞
番組名：「シンクロのシティ」
放送日時 ：毎週月〜木曜15：00〜16：50
パーソナリティ：堀内貴之、MIO
番組Webサイト：http://www.tfm.co.jp/city/