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■よく考えずに口座開設した人に朗報!

個人による投資を活性化しようと2014年からスタートしたNISA(少額投資非課税制度)。「初年度に目標を大きく上回る約800万件の専用口座が開設された」が、「実際に投資に使われない休眠状態の口座が半数に上っていた」(15年3月3日付日経新聞朝刊)との報道もある。何を買ったらいいのかわからないまま、口座を作って放置している人も多いようだ。そこでまず、仕組みをおさらいしてみよう。

通常、株式や投資信託で得た配当金や分配金、また売却益には、20.315%(所得税と復興特別所得税15.315%と、住民税5%)の税金がかかる。NISAはこの税金が非課税になる制度だ。

つまり、10万円の売却益が出た場合なら、2万315円の税金が課せられずにすむ。国にも、非課税という特典をつけ、NISAをきっかけに投資や資産形成を促す狙いがある。

NISA口座は20歳以上なら誰でも開設でき、利用するには、金融機関に「非課税(NISA)口座」を開く必要がある。扱っているのは証券会社、銀行(信託銀行、地銀、ゆうちょ銀行などを含む)、一部の投資信託会社で、すでに口座を保有している場合でも、NISAの専用口座を開かなければならない。また、開設できるのは1人1口座のみ。このNISA口座では「株」と「投資信託」の売買が可能だが、銀行では株の取引をしていない。金融機関を選ぶ際は株投資も視野に入れ、投資信託の取扱本数が多く、かつ手数料が安い証券会社を選びたい。SBI証券、楽天証券、カブドットコム証券などといった大手ネット証券がいいだろう。

15年から年単位で金融機関を変えられるようになったが、すでに購入したものを新たな金融機関に移すことはできない。初めから金融機関選びは慎重に行い、満足できる金融機関を選んだほうが合理的だ。NISA口座で投資できるのは、年間100万円が上限となっており、期間は5年間。年間100万円×5年間で、計500万円を投資できる。なお、この額は16年から120万円に拡大されるため、計600万円投資できることになる。

意外と誤解している人が多いが、100万円(16年からは120万円)はあくまで上限であり、10万円でもいいし、毎年投資せず、1回だけでもいい。NISA口座の開設や利用には手数料がかからないので、「ほんの少額を投資するだけだから……」と利用をためらう必要はないのである。

■損失が出ると始めてもあだになる?

利益が非課税になるメリットは大きい。しかし、認識したいのは、それはあくまでも、「利益が生じた場合のメリット」であることだ。

言うまでもないが、投資では株価の値下がりなどで損する可能性もある。利益が生じなければ税金もかからないので、非課税のメリットはない。

それだけならいいが、よく知っておきたいのが、NISA口座での売買では「損益通算ができない」ことである。

一般の証券口座で行った取引であれば、株式などの売買で損が生じた場合、損益通算をすることができる。

たとえば、ニトリHDの株を売って10万円の利益を得たものの、同じ年に、大塚家具の株で30万円の損失が出たとしよう。その場合、ニトリ株の利益10万円と大塚家具株の損失30万円を損益通算でき、ニトリ株の利益は非課税になる。確定申告を行えば、損失は翌年から最長3年にわたって繰り越して控除することもできる。

しかし、NISA口座で生じた損失については、損益通算の対象外。損が出た場合は、ほかの利益にかかる税負担をカバーするという役割を果たすことができない。

そんなリスクがあるなら一般の証券口座で取引を行ったほうがいい、と思うかもしれないが、そもそも、損することを想定して投資する人はおらず、利益を出そうと思って投資をするのだ。ならば値下がりしない銘柄をしっかり選んで儲ける、ということに力を注ぐ以外ない。

■短期で勝ち逃げが必勝法

知っておきたいのが、投資期間である。NISAでは、買った年を含めて5年後の年末(15年に買った分は19年末)までが非課税になるが、翌年の非課税枠に移す「ロールオーバー」という方法をとることができ、そこからさらに5年間、非課税期間が続く。つまり、最長10年間は値上がりを待てるのだ。

もし10年を視野に入れるなら、最悪期を脱していいほうに向かっていくようなものが狙い目だ。大きな値上がりが期待できるものほど、非課税メリットが生きる。新興国でいえば、原油価格が下げ止まりしつつあるロシアや、インフレ懸念が後退しはじめているブラジルなど。ロシアの株価指数に値動きが連動するETFや、ロシア株に投資する投資信託などが候補になる。

とはいえ、遠い先のことほど予測がつきにくいので、もっと短期志向で銘柄を選び、値上がりしたら非課税メリットを受けるために、勝ち逃げすることをお勧めする。預金金利を考えれば、1〜2割程度値上がりしたら売る、という感覚でいいだろう。

1〜2年の短期で考えるなら、日本株や米国株で相場上昇の流れに乗りたい。

配当金も非課税になるので、高配当銘柄も悪くないが、商法改正(01年10月施行)によって、剰余金からも配当が出せるようになり、配当金と業績とが必ずしも連動しない企業も多い。「業績好調で配当を増やしている銘柄」を選ぶことが望ましい。

ちなみに、日本の総合商社は配当金が高いわりには株価が割安である。総合商社のようなビジネスモデルは海外にはなく、外国人投資家には評価が難しいため、企業価値からみると株価が割安な水準におかれやすいからである。

また銀行も最近は株主還元重視に舵を切りつつある。地銀も合併などの再編が進み、安倍政権の地方創生によって収益が上がる可能性もある。

銀行株を含め、株式の売買単位が大きな企業などでは売買に何十万円も必要になるが、銀行株に特化したETFなど、業種別のETFなら2万円程度で投資できる。複数口を買って、ある程度上がったら半分売って利益を確定させる、というのもいいだろう。

また、「子どもNISA(ジュニアNISA)」が制度化された。これは、子ども名義で親や祖父母がNISA口座を開設し、その中で株式や投資信託を売買するもの。投資可能額は年間80万円で、子どもが18歳になるまでは非課税での引き出しができない(売却は可能)。教育費づくりも投資で、という流れだ。

しかし、確定拠出年金(http://president.jp/articles/-/17224 参照)は掛け金が所得控除になるなど、運用成果にかかわらず非課税メリットを享受できるが、NISAでメリットがあるのは儲かったときだけだ。もとより、教育資金をリスク商品だけで準備するのは危険も伴うので、預金商品と併用するなどの工夫が必要である。

※図版は井戸美枝氏への取材をもとに編集部で作成

 

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確定拠出年金、NISAのプロフェッショナル●深野康彦
ファイナンシャル・プランナー。クレジット会社、独立系FP会社入社を経て、ファイナンシャルリサーチ代表に。著書に『1万円から始めるETF投資』『これから生きていくために必要なお金の話を一緒にしよう!』。

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(高橋晴美=構成 kou/pixta=写真)