デザインした人 デザインオフィスnendo代表 佐藤オオキ

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ロッテからデザイン依頼を受けた2006年、僕はまだ20代で、パッケージデザインを手がけたこともなかった。求められたのは、まったく新しい視点で、新しい価値観のガムを打ち出すことでした。

当時はキシリトールなどの「歯にいいガム」が主流。「ACUO」などの「口臭除去ガム」は目立たない存在でした。もともとは、その狭いマーケット内で、口臭対策用のガムとしてロッテが推していた「FLAVONO」を若者向けにリニューアルし、シェアを伸ばすことを目指していました。

統計データ上からも、若者の口臭対策用ガムの購入率が高くないことはわかっていた。なぜマーケットが発展しないのか。その理由を探るために、ガムの成分やパッケージだけでなく、そもそもガムとは何かというところまで立ち返る必要がありました。そうして考えを進めていけばいくほど、既存の商品の延長線上をたどることに限界を感じ、ゼロから新しいブランドを作ることを決めました。

新しい市場を開拓するには、結局、ユーザー目線に立つことです。そこで僕らが出した答えは、「あえて一歩引いた大人しい表情にすること」でした。

当時、店頭のガム売り場で見るパッケージには、ミントのガムならミントの葉っぱがでかでかとある、キシリトールが売りであれば成分表示を目立たせる……お客さんにどうアピールするかを競い合う、大声の過剰なデザインが並んでいました。

また、キヨスクなどの売店でガムを縦に陳列したときに目立つよう、「LOTTE」などの社名は、一般的に商品名のロゴを正面に見て左端に入っています。しかし、社名はそもそも購入者にとって必要なのか。それに、無理して同じ場所に入れると、すべての種類のガムが同じ顔つきになってしまう。

そこで、初代ACUOのパッケージでは、社名のロゴを左端から右へ動かし、マットシルバー色の上に白色で置いて目立たないように仕上げました。角度によっては、光の加減で下地の色と同化して消える効果もあります。

このデザイン案を通すためのプレゼンテーションでは、パッケージを自分たちで印刷して作りました。そして、実際にACUOのサンプルをカートンに並べ、棚まで作り、競合の「Clorets」から「XYLITOL」まですべてのガムがコンビニで並ぶ状態を再現しました。

口臭対策としての効能感を表現するために、病院で処方される薬のようなデザインに仕立てています。「ACUO」という文字も、一般的な看板や標識に使用される、「Helvetica(ヘルベチカ)」というフォントを使用。ACUOの特徴は清涼感です。このことを伝えるために、過剰な装飾は必要ない。清涼感はパッケージに入った緑色のグラデーションと包装紙のマットシルバー色だけで十分表現できます。個性をかき消すことこそが、特徴を際立たせることにもつながる。そう考えたのです。

発売から9年、累計販売数は8億本以上!

写真は初代ACUO。2006年8月、20〜30代の若年層向けのミントガムをコンセプトにして発売された。以来、5度にわたるデザインリニューアルを経て、現在までの累計販売数は8億本以上を突破。コンビニ各社のガム部門・売り上げで9カ月連続トップ。07年度グッドデザイン賞を受賞。同年、食品ヒット大賞優秀ヒット賞受賞。グリーンのほか、ブルー、ブラックに加えタブレットも展開する。

 

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佐藤オオキ(デザインオフィスnendo代表)
1977年、カナダ生まれ。2000年早稲田大学理工学部建築学科首席卒業。02年nendo設立。現在、ミラノにもオフィスを構え、2拠点で活動。06年「世界が尊敬する日本人100人」、07年「世界が注目する日本の中小企業100社」に選ばれる。多数の代表作は、世界の主要な美術館に収蔵される。

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(デザインオフィスnendo代表 佐藤オオキ 構成=矢倉比呂 撮影=佐藤新也)