八王子が中核市に移行…“多摩の首都”の座を死守できるか
今年4月1日、東京都八王子市が中核市に移行した。中核市は政令指定都市につぐ権限を有する基礎的自治体であり、中核市移行について「住民生活に即した行政ができるようになる」と八王子市は主張している。
これまでにも八王子市が中核市になるチャンスは何度かあった。直近では、平成11(1999)年。だが、八王子市はそのチャンスを見送っている。
「従来、基礎的自治体と言われる市町村は、町村なら市に、普通の市なら特例市に、特例市なら中核市に、中核市なら政令指定都市にといった具合で、すこしでもランクアップしたいと考えています。ランクアップすれば、それだけ市の権限が拡大するわけで、首長は自分の思い描いた行政ができるのです」と説明するのは、ある地方自治体関係者だ。
基礎的自治体の役割が重要視されるようになったのは、平成12(2000)年に地方分権一括法が施行されたことが大きな節目だったといわれる。これまで政府の下請け的存在だった地方自治体は、同法によって政府から自律した行政運営ができる権限が移譲された。
そうした地方分権の流れがあるにしても、八王子市が重い腰をあげて、改めて中核市になろうとした理由は何なのか?
「今回、八王子市が再び中核市を目指した理由はいくつか考えられます。ひとつは、舛添要一都知事が選挙公約で多摩を重視する政策方針を表明したことです。舛添都知事は東京23区に比べて、多摩地域の開発・発展が遅れていると指摘しています。23区と多摩地域の格差を解消するために、多摩専任の副知事を置くことを公約にしていました。八王子市の中核市移行は、そうした都の意向もあると思われます」(前出・地方自治体関係者)
八王子の人口が都心に流出八王子市が中核市になろうとしたもうひとつの理由が、2005年頃から顕著になり始めている都心回帰の傾向だ。近年、千代田区や港区といった都心部に高層マンションが多く建設されている。一時期より不動産価格も安くなり、どんどん人口が都心に逆流した。
従来、八王子市などは人口の受け皿となって発展してきた。それだけに、都心回帰現象は八王子市からの人口流出という可能性をはらんでいる。
これまで八王子市は“多摩の首都”を自認してきた。昨今、中央線随一のオシャレタウン・吉祥寺を擁する武蔵野市と三鷹市や交通の要衝地・立川市などが台頭してきたことから、八王子市の“多摩の首都”の地位は危うくなっている。特に立川市の著しい発展は八王子市を焦らせた。それが遠因になり、八王子市の中核市移行を後押しした。
「中核市は○○区といった行政区が設置される政令指定都市とは違い、見た目の変化がない。そうしたことから、一般市民には中核市に移行したことの恩恵が伝わらない。市民が中核市になって、メリットを実感できるかどうか……。そのあたり、行政運営の真価が問われる」(前出・地方自治体関係者)
中核市は保育園や特別養護老人ホームの設立認可権限、悪臭・騒音・振動などの規制基準を独自に設ける権限などを持つ。これだと確かに実感は沸きづらい。私たち一般市民にとって身近なトピックは、飲食店や興行場の営業許可権限が都から移譲されることだ。
中核市・八王子はオシャレなカフェ、バーといった食品衛生法が関係する飲食店、映画館やライブハウスといった興行場法が関係するイベントスペースなど、若者が集まりそうな施設の営業許可権限を持った。以前なら、これらの営業許可は東京都が握っていた。
権限を手にしたことで、八王子市は多くの店が集まり、人出が増える戦略を迅速に立案できるようになった。これは、安倍政権が掲げる“地方創生”の東京バージョンといえるのかもしれない。
だが、中核市になったからといって八王子市がすぐに発展するわけではない。問題は中核市になったことで解決するのではない。それでも中核市になることで、街を活性化させようとする狙いが八王子市にはある。
眠れる大国・八王子は“多摩の首都”の座を保てるか?
(取材・文/小川裕夫)