リニア新幹線、いよいよ土地買収交渉へ 地権者5000人、名古屋駅周辺に多い
品川−名古屋間を最短40分で結ぶリニア中央新幹線の着工が2014年10月に認可されたことを受け、用地買収に向けた動きが本格化している。
ただ、「今世紀最大のプロジェクト」とされるだけに、地権者は総勢5000人に上る。2027年の開業に向け、なかなかハードルの高い事業となっている。
路線の大半はトンネルだが・・・
リニア建設を一手に担うJR東海の柘植康英社長は、11月12日の定例会見で、建設予定地の地権者が登記簿上、7都県の約5000人にのぼることを明らかにした。内訳は東から東京都約50人、神奈川県約1500人、山梨県約1300人、長野県約400人、静岡県1人、岐阜県約1000人、愛知県700人となっている。
ただ、西から東まで延々と土地を買わなければならないわけではない。リニアのルートは南アルプスを貫くなどしており、その86%がトンネルで、しかもその多くは、深さが40メートル以下の「大深度」と呼ばれる層にある。大深度であれば、地権者への補償は原則として不要だ。補償の対象となるのは、主に地表からの深さが30メートル未満のトンネルのある土地と、地上を走る部分に限られる。
とはいえ、5000人という数は、決着まで一筋縄ではいかない交渉を想像させるに十分だ。JR東海は現時点で補償や土地取得の費用の総額を約3420億円と見込んでいるが、それ以上に膨らむリスクを常に抱えている。
難航が予想されているのが多くの地権者が集結する都市部で、とりわけ西の起点の名古屋駅周辺が心配されている。リニアの名古屋駅は現在の名古屋駅にほぼ垂直に交差する形で地下に設けるプランが進められている。深さは約30メートルでリニア駅自体の長さは約1キロメートル、敷地面積は約3.5ヘクタールと想定される。
ファッションヘルスとも交渉?
リニア名古屋駅は地下に存在することになるが、建設工事は地上から掘削する形で進める。真上を走る東海道新幹線を止めずに行うことなどから、リニア工事の中でも最大の難所で「10年以上かかる」と指摘する声もある。2027年開業から逆算すれば、向こう2年くらいで土地取得または補償交渉を決着しなければスケジュールが厳しくなる計算だ。工事の対象地域でJR東海が保有しない場所に建つビルは約70棟あり、地権者は120人にもなる。特に現在の名古屋駅の西側は地元で「駅裏」と呼ばれるいわく付きの地域で、ファッションヘルスなどの風俗店も軒を連ねる。
JR東海は都市再開発の実績のある名古屋市の協力を得て地権者との交渉を進める方針。リニアの建設などを司る全国新幹線鉄道整備法も、地元自治体が用地取得のあっせんなどに努めるよう定めており、今後、JR東海は名古屋市と用地取得などに関する協定を結ぶ。
リニア開業を見据えて既に名古屋駅界隈、特に駅西側の地価は上昇基調をたどっている。9月に国土交通省が発表した基準地価では、愛知県の商業地の上昇率上位5地点が名古屋駅周辺に集中。最高地点は前年比10.6%の上昇だった。投機マネーの流入も見え隠れしており、「まだ上昇余地のある西口の土地持ちは鼻息が荒い」(不動産大手幹部)という。限られた時間の中、土地高騰と、数多き地権者という難題を前にいかに交渉を円滑に進めるか、リニア開業に向けてJR東海がまず直面する壁となっている。