メジャー初先発、初勝利を飾るなど、順調なスタートを切った田中将大(ヤンキース)。7年1億5500万ドル(約161億円)という巨額の契約を結んだヤンキースにとっては、ホッと一安心したことだろう。そんな田中の活躍をよそに、メジャースカウトたちは次の日本人選手の獲得を目指し、日々活動に励んでいる。

 田中のあと、メジャースカウトたちが狙う日本人選手は誰なのか。何人かのスカウトに聞くと、「田中ほどの騒ぎにはならないかもしれないが、間違いなく狙っている選手はいる」と語る。その筆頭が、広島のエース・前田健太(25歳)だ。実際、前田自身もメジャー移籍を希望しており、スカウトたちの注目も高い。ナ・リーグ某チームのスカウトは次のように語る。

「田中に比べて、体力的な不安はありますが、前田は間違いなく欲しい選手。昨年のWBCの実績もあるし、何より制球力が抜群。岩隈久志(マリナーズ)とイメージがダブる。メジャー移籍が決まれば、手を上げる球団は複数出るのは間違いないでしょう」

 前田は海外FA権を取得するまでまだ3年あるが、もしポスティングでの移籍を球団が容認すれば、今年のオフの移籍も現実味を帯びてくる。そうなれば、前田自身が好成績を挙げてチームを上位に導いていけば、その時に、さらに評価は上がるに違いない。そして何より、前田の場合は年齢的な魅力がある。関心を持つ球団はかなりの数になるのではと予想される。

 では、前田の他にはどうか。ここに来て評価を上げているのが、オリックスの平野佳寿(30歳)と金子千尋(30歳)の両投手だ。平野について、ナ・リーグスカウトは次のように語る。

「ストレートは150キロ前後あり、スライダーとフォークのキレも素晴らしい。何より四球が少なく、三振を奪えるのが最大の魅力。リリーフを必要としている球団はたくさんあるだろうし、彼がメジャーを希望すればいくつかのチームが手を上げると思うよ」

 昨シーズン、平野は62回2/3を投げて、奪三振71、与四球14と抜群の成績を収めた。この安定した成績は上原浩治(レッドソックス)に通じるところがあり、複数の球団が獲得に動くだろうというのがスカウトたちの見方だ。

 続いて、金子についても聞いてみた。

「これまで故障が多く、メジャーの中4日の登板に耐えられるだけの体力があるかどうかを心配する声もあるが、持っているものは一級品。とにかく彼の素晴らしいところは、変化球の多さとその精度の高さ。どの球種でもストライクが取れるし、どれもウイニングショットにできるだけのキレがある。昨年、パ・リーグの奪三振王を獲得したが、三振を奪えるのも魅力」

 海外FA権を取得できるのは来年だが、金子がメジャーを希望すれば、間違いなく獲得に動くチームはあるという。この他、投手で名前が挙がったのがDeNAの山口俊(26歳)とソフトバンクの森福允彦(27歳)のふたり。ア・リーグ某チームのスカウトは次のように語る。

「山口は藤川球児(カブス)より経験が浅く、まだ安定感はないかもしれない。だけど、年齢も若いし、藤川よりも肩がすり減っていない。それに彼の魅力は体の大きさ。しっかりトレーニングを積めば、まだまだスピードアップも望める。アメリカで成功する可能性を秘めたピッチャー」

 そして森福については、「アメリカにいないタイプだから」とのことだが、彼のようにワンポイントで生きそうなタイプも、チームによっては必ずリストアップしているという。

 一方、野手はどうか。これまでしばしば名前が挙がっていたのが、オリックスの糸井嘉男だ。投手に比べて、日本人野手の評価は厳しいが、糸井に関しては複数のメジャースカウトが「糸井のポテンシャルはメジャーでも通用する」と言うように、その才能を高く評価している球団はある。

「彼のスピードは十分にメジャークラス。イチロー(ヤンキース)や青木宣親(ロイヤルズ)と違い、一塁到達タイムはそれほど速くないが、塁間のスピードなら、彼らと同等か、それ以上かもしれない。それに、彼らよりもパワーがあるし、守備も素晴らしい」(ア・リーグスカウト)

 そして近年は、走塁やバントなどの小技を駆使して1点を取りにいく、いわゆる「スモール・ベースボール」を採用するチームが増え、獲得する選手の傾向も変わりつつあるという。

 ステロイドなど薬物の規制が厳しくなり、本塁打は年々減少傾向にある。さらに、サラリーキャップのないメジャーでは、資金力の差で有力選手の獲得にも影響が出る。金がなくスラッガーを獲得できないチームが、それを補うべくスモール・ベースボールに走るのも不思議ではない。タンパベイ・レイズなどは今年、スモール・ベースボールを実践すると明言し、スプリングトレーニングから積極的な走塁を徹底させている。

 さらにメジャーでは今後、フィールド上のすべてのプレイをビデオデータ化し、守備や走塁の精度を数値化する試みを本格的に始めていくという。こうした流れは、守備や走塁を大事にしてきた日本人プレイヤーにとっては、劇的ではないにしても多少優位に動くかもしれない。とりわけ糸井のようなオールラウンドプレイヤーにとってそれは言えるだろう。

 昨年は田中を見るために、多くのメジャースカウトが球場を訪れた。今年は前田の存在がそれに近い状況を生み出すかもしれない。また、現段階はノーマークでも、今年の活躍いかんで評価がガラリと変わる選手もいるだろう。はたして今シーズン終了後、メジャースカウトたちに「獲得したい」と思わせる選手はどれだけいるのだろうか。

永塚和志●文 text by Nagatsuka Kazushi