マグロやカツオなどのサバ科魚類の共通祖先は深海に棲んでいた!? -東大など
東京大学(東大)は9月5日、外洋を遊泳する高次捕食者として海洋生態系において重要な役割を担い、かつ食料として人間とかかわりを持つマグロやカツオ、サバなどのサバ科魚類の多くが、従来類縁性が高いと予測されてこなかった別の14科と祖先が共通であり、その共通祖先は外洋の深海(200m以深)に棲み、約6500万年前に起きた恐竜時代を終わらせた白亜紀の大量絶滅を生き残り、との直後にサバ科を含む15科の魚類を次々と生み出した可能性が高いことをDNA系統解析から見出したと発表した。
同成果は、千葉県立中央博物館の宮正樹動物学研究科長らと東京大学大気海洋研究所の馬渕浩司助教・西田睦名誉教授らによるもの。詳細は「PLoS ONE」に掲載された。
サバ科魚類は、マグロ・カツオ・サバ類を含む15属57種からなる海産魚で、水産資源として世界で利用されており、研究としても、さまざまなものが行われてきたが、サバ科魚類がいったい「いつ」「どこに」起源して「どのような」道筋を経て現在の57種に進化してきたのか、については未解明のままであった。
この理由の1つとして、これらの魚類が含まれる「サバ亜目(サバ科を含む計6つの科が含まれる)」の構成に統一見解が得られなかったことが挙げられる。例えば、カジキの仲間は「カジキマグロ」とも呼ばれるほどマグロの仲間に類似しており、教科書や図鑑の多くでサバ亜目の一員とされている。しかし近年の研究でサバ科魚類とは遠い関係にある魚であることがわかってきており、既存の魚類分類体系ではない、新たな手法に基づく形でサバ科魚類の起源と進化を探る必要があった。
そこで今回研究グループは、スズキ類と呼ばれる巨大分類群((13目269科に分類される17000種を含みサバ亜目もその一員)を対象に、DNAの系統解析を用いて未知の近縁群を割り出すことに挑んだという。
具体的には、サバ科魚類の近縁群の探索のために、データベースに登録されている全スズキ類(13目269科に属する17000種を含む)の塩基配列計10733件を入手。これらの塩基配列は、すべてのスズキ類魚類のDNAを網羅しているわけではないが、215科1558属に含まれる5367種についてのデータを得ることができ、その中から100種以上の魚類において共通した遺伝子として登録されている遺伝子計9個を用いて系統解析を実施した結果、サバ科魚類の近縁であることに論争のない2科(タチウオ科とクロタチカマス科)に加えて、新たに別の12科についてもサバ科魚類に近縁なグループに分類されることが分かり、それらを含むグループとして、サバ科を含む計15科について、研究グループでは新たにギリシア語で「外洋に住むもの」を意味するペラジア (Pelagia)」という名前と与えたという。
このデータベースを用いた解析では、個々の遺伝子に含まれる情報量が少ないことから(各遺伝子で1000塩基対前後)、研究グループでは、より信頼度の高い結果を得ることを目的に、15科に含まれる魚類のサンプルを幅広く収集し、情報量が多いミトコンドリアゲノム全長配列(約16500塩基対)を計57種の魚類について決定。15科以外の67種の魚類のミトコンドリアゲノム配列と共に新たな系統解析を行ったほか、系統樹に時間軸を入れるために分岐年代分析を行ったところ、15科が単一の祖先に由来する単系統群であることが高い確率(100%)で支持される系統樹が得られたとする。
また、カジキやカマスの仲間はこの単系統群の外に分類され、むしろアジやカレイの仲間に近縁であることも示唆されたほか、分岐年代分析からこれら15科の祖先が分化したのは白亜紀末に起こった大絶滅(中生代と新生代の境界の約6500万年前)以降であることも判明した。さらに、過去の生息場所の推定を行ったところ、サバ科魚類の祖先は400m以深の深海から現れたことも示唆されたという。
今回の成果について研究グループでは、「ペラジア」に含まれる魚類は、海の表中層(0〜1000m)に生息する捕食型の遊泳性魚類であるという共通の生態的特徴をもっているほか、系統樹上で過去の生息水深を推定した結果、その祖先は400mほどの深海に生息していた可能性が高いことが示された。また、既存の分類体系は、形態の類似性を頼りにサバ科魚類とその近縁魚類を6つもの亜目に分類してきたが、進化の歴史をより反映させるため、今後大きな見直しが必要になるとコメントしている。