■ブルガリア戦で先発出場した五人の国内組

ワールドカップ出場のかかった重要な一戦を数日以内に控えた親善試合で、いきなり未知の戦力を試すわけもなく、ザッケローニ監督はこれまでの強化を踏まえて対オーストラリア戦で起用するだろうメンバーを豊田スタジアムのピッチに送り出した。ワールドカップ出場権を獲得したあとならいざ知らず、この段階で東慶悟や工藤壮人を使っていたら、そちらのほうが驚きだ。決戦直前の出来上がっているチームに新しい選手をまぜたところで準備にはならない。

センターフォワードは前田遼一とハーフナー マイクを45分間ずつ。対オーストラリア戦まではトップの位置はこのふたりに任せるしかない。フォーメーションはともかく、本田圭佑不在の場合は、現時点では香川真司、乾貴士、清武弘嗣、中村憲剛のうち誰かがその不足分を埋める。もし東がトップ下を務めることがあるとしても、それもオーストラリアとの闘いが済んでからだ。

さて「本番」を見据えた対ブルガリア戦の先発には五人の国内組がいた。横浜F・マリノスの栗原勇蔵、ジュビロ磐田の前田遼一と駒野友一、ガンバ大阪の遠藤保仁と今野泰幸である。磐田とガンバのリーグ戦での順位を指して、J1で残留争いをしている磐田と、J2のガンバから代表選手を選んでいるから弱いのだ、と指摘したくなる気持ちはわかるが、代表監督は弱いチームから選手を招集しているわけではない。

もしほんとうにJ2から代表選手がコンスタントに選ばれるようになればそれは大きな進歩だが、実際にはそうなっていない。FC東京やガンバが降格したからJ2クラブ所属の代表選手という肩書きが今野に与えられただけで、J2の選手を呼んだわけではないのだ。あくまでも選手ありき。もし本田がJFLや地域リーグのクラブに移籍したとしても、彼なら代表に呼ばれるはずだ。

とはいえ、クラブの格やブランド力の影響も否定できない。いい選手がいたとして、その選手を養生できる環境が整っているクラブに所属していなければ、能力やコンディションの維持が期待できないからだ。

その点、マリノス、磐田、ガンバ、東京といったチームは、J1での順位が何位であろうと、J2であろうと、選手の状態を代表での活動に必要なレベルに維持できると見込まれているのだろう。または、代表選手を抜かれることによって被るチーム力の低下にも甘んじて堪えてくれると思われているのか、実際にそういう関係性を保っているか。

J2が代表選手にあふれる世界最強の2部、という夢想

J1首位の大宮アルディージャにもいい選手はいる。しかし大宮から代表の活動がある度に選手を招集してしまったら、その負担に堪えられるだろうか。リーグ戦での独走が止まってしまうのではないだろうか?

「有名税」を課していいのは、それなりの耐久力を持ったクラブだけ。鹿島アントラーズや名古屋グランパスから呼んでいないという事実はあるにしろ、前田、駒野、伊野波雅彦、遠藤、今野の招集にはそれなりの合理性があると言っていい。

しかしこう毎年のように「それなりのクラブ」チームがJ2に降格している現実を見ると、クラブのブランド力の範囲を越え、本格的に代表レベルの分布範囲がJ1からJ2上位に拡がってきたのではないかと考えたくもなる。サガン鳥栖と豊田陽平がJ1に上がってもこれだけやれているのだから、J2上位チームやその主力選手には一定の信頼を置いていい。

特に点獲り屋の得点感覚は、それが下のカテゴリーで発揮されたものであっても、上位でもそのまま通用するケースが多い。代表レベルでゴール前での崩しができる中村憲剛にしても、もともとはJ2からチームとともに昇格し、J1上位レベルと認められた選手だ。総合力の高いクラブが増えれば、代表選手供出の負担も分散できる。