天才・風間八宏が日本サッカーの常識を斬る

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 現在、川崎フロンターレの監督を務める天才・風間八宏氏と気鋭のライター木崎伸也氏がタッグを組んで作った書籍が9月7日(金)に発売された。タイトルは『革命前夜 すべての人をサッカーの天才にする』(カンゼン刊)。本作は、「すぽると!」のサッカー解説者でおなじみの風間氏が日本サッカーの常識に切り込んで解説したり、天才の育成方法などを語っている。
 サッカーエンタメ最前線では2週にわたり本書をピックアップ。1回目の今回は、日本サッカーの常識だと思い込んでいる「誤解」を風間氏が1つひとつ取り上げている箇所を一部紹介する。

■日本サッカーが解くべき8つの「誤解」


 何気ない言葉の中に、日本サッカーの本質を見抜くヒントが隠されていることがある。2010年南アフリカ・ワールドカップに向けたスカパーの特番で、イビチャ・オシムが投げかけた言葉もそのひとつだった。
「毎週Jリーグと欧州リーグを見ている人が、これが同じスポーツか? という疑問を持ったときに、サッカーの解説者には答える責任があると思います。なぜ違うように見えるのか、ちゃんと説明しなければいけません。そしてなぜ日本人選手が同じようにプレーすることができないのか、説明できるだけの知識と責任感を備えていなくてはいけません」
  オシムはきっと、こう言いたかったのだろう。Jリーグと欧州のトップリーグには、同じスポーツとは思えないと感じさせるほど重大な差がある。その差を明確に言語化できない限り、日本サッカーが次のステージに行くことはない――と。
  ワールドカップを取材するために南アフリカを訪れてからも、筆者の頭の片隅にはずっとこのオシムの言葉がひっかかっていた。
  なぜ別のスポーツに見えてしまうのか。
  世界トップとの差はどこにあるのか。
  もしかしたら、完全に見落としている欠点があるのではないか……。
  そんな自問自答を繰り返していたとき、ワールドカップのメディアセンターで、解説者の風間八宏さんと「日本サッカーの可能性」について話す機会があった。
  風間は18歳のときに日本代表に選ばれ、筑波大学卒業後に数々の実業団チームからの誘いを断ってドイツに飛び、計6年間ドイツでプレーした"欧州組"の先駆者のひとりだ。清水商業時代の恩師である大滝雅良監督が「教えることは何もなかった。逆に自分が彼から多くのことを学んだ」と回想するように、幼い頃から飛びぬけた発想力を持つ"天才"だ。
  サンフレッチェ広島時代には、キャプテンとしてJリーグの前期優勝(94年)に貢献しており、間違いなく日本サッカー界で世界のトップとの距離感を最もよく知るひとりである。中田英寿氏は現役時代、風間の見識と洞察力に共感を覚え、nakata.net.TVの進行役を任せていたほどだ。
  この稀有な"サッカーの目"を持つ男は、南アフリカにおける日本代表をどう見たのだろう? 
  風間は選手たちの頑張りに称賛を送る一方で、日本がチームとして消極的なやり方を選択したことに、物足りなさを感じていた。
「今回の日本は、攻撃のための守備ではなく、守備のための守備になってしまう時間が多かった。日本人選手のテクニックを考えれば、もっと自分たちの良さを出すサッカーができたはず。もちろんベスト16という結果は、日本サッカー界にとって大きな意味があったが、あらためて何を大切にしてサッカーをするのか、考えなければいけないと思う」
  ただし、これは日本だけの課題ではない。風間は南アフリカ・ワールドカップでは、多くのチームの質が「低かった」と感じていた。
「今大会では、多くのチームがサイドにボールを運んで、中央に向かってクロスをどんどん入れるというサッカーをしていた。こういうサッカーは、スペースを消されると途端に行き詰まってしまう。昔のサッカーに戻ってしまった感じです」