■奇跡でも偶然でもない、鳥栖の躍進

奇跡でも偶然でもない。これが今季の鳥栖の実力だ。

今更ながら、シーズン開幕前にここまでの鳥栖の躍進を予想した人がいるだろうか。専門家の中でも、大方は降格候補の筆頭に挙げられていた。コアなサポーターでさえ、前半戦を終えての順位を予想したのは皆無だった。

それが、前半戦を終えて6勝6分5敗と5割以上の勝率を残して10位で折り返すことができた。
懸念されていた得点力に関しては、20得点17失点と得点が上回っている。しかも、失点の少なさは、17チーム中4番目と並みいる強豪と堂々と戦い結果を残した。
「初めてのJ1リーグで、対戦相手が分析できずにいた」や「鳥栖を舐めていた」などと言われることもあったが、それらの理由も後半戦が始まると間違いであったと一掃してしまう試合運びを見せている。

■やるべきことを90分間続ける集中力と精神力

後半戦の初戦はFC東京が相手、前回の戦いでは2点を先制しながらも3失点と逆転負けを喫した相手だった。それまで、複数失点を経験しなかった鳥栖にとっては、J1の攻撃力を見せつけられた相手でもある。当然のごとく、鳥栖にとっては嫌な相手だったが、その試合をトラウマとはせず、逆に『鳥栖らしさ』を取り戻す試合としたのだ。

予想通り、FC東京は試合開始から鳥栖を攻め立てた。中盤からの長短を織り交ぜたパスで鳥栖を崩しにかかってきた。しかし、前回の戦いで、後半の30分間からの13分間で3得点を挙げた攻撃陣に思うような形を作らせず、鳥栖は90分間を戦うことができた。前回の戦いで、初めて複数失点を喫した相手のストロングポイントを90分間消し続けることに成功した。

それは、前半戦に『堅守の鳥栖』と言わしめた全員で相手のストロングポイントを消すサッカーをやりぬいたのである。

打たれたシュートは13本と鳥栖の10本を上回ったが、得点は鳥栖が43分に奪い、1-0で勝利したのである。
試合後に尹晶煥監督は「選手たちに強調した部分は、『集中力』と『精神力』と・・・」と打ち明けてくれたが、「選手たちが90分間やるべきことを続けて戦い抜いたおかげ」とも語った。
具体的な話はなかったが、この言葉にこれまでの鳥栖の戦い方がすべて含まれている。

■強敵相手にも自分たちのサッカーを繰り広げた

鳥栖のサッカーは、全員が高い守備意識をもち、全員でボールを追い込んで奪い取るところから始まる。そのためには、「集中力」と「精神力」は不可欠なのである。ボールを追い込む技術や意識も当然のごとく必要だが、その前に「ボールを奪う」という気持ちを持たないと結果はついてこない。ここを尹晶煥監督は言い続けているのである。

そのうえで、「選手たちが90分間やるべきことを続けて戦い抜く・・・」ことを求めているわけで、言葉はシンプルであるが求めていることは、相当に高いものである。

これらは、決して簡単に作り上げることはできない。サッカーは、相手があって成り立つスポーツで、思うような試合展開が行えるとは限らないものである。それを、後半戦の初戦となった第18節のFC東京戦で実践させたわけで、前半戦の結果が決して偶然でも奇跡でもないことを証明した試合といえる。

続く、第19節仙台戦(ユアテックスタジアム)でも、前半のうちに先制し、残り時間の仙台の猛攻を1点に抑えて、堂々と引き分けることができた。第20節鹿島戦(ベストアメニティスタジアム)も、23分と61分に得点を挙げて強力な攻撃力を持つ鹿島を無得点に抑え込むことができた。

後半戦の3試合はいずれも相手チームの方のシュート数が上回っているが、鳥栖は2勝1分と上々の結果を出している。内容も4得点1失点と、上位のチームと遜色ない結果を出している。繰り返しになるが、これだけの戦い方を見せると、前半戦の結果が決して偶然でも奇跡でもないことを証明したといえる。