【戸塚啓コラム】国内親善試合の歯がゆさ −アルゼンチン戦レビュー（１）
２度目の対戦となった95年のインターコンチネンタル選手権では、段違いの強さを突きつけられた。前回の対戦で勝敗を分ける要因となった速さとうまさに、パワーとしたたかさを加味した攻撃は、どうにも止めようがなかった。ジェノアから合流したカズがＦＫから１点を返したが、１−５の大敗には慰めの言葉も見当たらなかった。
10月８日に行なわれたアルゼンチン戦を、数年後に振り返るとする。
まず思い浮かぶのは、相手のコンディションの悪さである。いかにスケジュールがハードとはいえ、前半に２人が負傷交代し、途中出場した選手までがケガで退いたのは、準備不足を指摘されてもしかたがないだろう。試合後の記者会見に臨んだセルヒオ・バティスタ監督は、ほぼすべての質問の答えに「日本は良いチームだった」というフレーズを挿入したが、何よりもまずアルゼンチンの状態が酷かったのは明らかである。
この試合のアルゼンチンは61％のボール支配率を記録しているが、最終ラインの４人とマスチェラーノのボールタッチ数が非常に多い。４−３−３で中盤のアンカー的な働きを担っていたマスチェラーノは、ビルドアップの局面でセンターバックの間へ入る。バルセロナに似たボールの動かし方だが、ＧＫへのバックパスが目につき、中盤を飛ばした１本のタテパスで崩そうとする場面もあった。結果的に、３トップへの効果的なパスは少なかった。
メッシのボールタッチ数は前半、後半ともにチームのトップ３に食い込んでいるが、アタッキングサードでのタッチ数はさほど多くない。両チームを通じて最多５本のシュートを放っているものの、ペナルティエリア内からは１本だけで、ペナルティアーク内が１本である。残る３本の内訳は、フリーキックが２本、ミドルシュートが１本となっている。
ペナルティエリア内からのシュートは、チーム全体でも４本にとどまる。総シュートは13本だから、ボール支配率の高さほどには日本のゴールに迫られなかったことが分かるだろう。メッシやテベスのように、ドリブル突破からフィニッシュへ持ち込むタイプではないイグアインが１本のシュートも記録していないのは、実効性の薄い攻撃を浮き彫りにする。
日本の戦いぶりは悪くなかった。ディフェンスの集中力は南アフリカＷ杯を想起させるものであり、攻撃の迫力は南アフリカＷ杯を上回るものだった。ボール支配率では譲ったものの、アルゼンチンを上回る15本のシュートを浴びせ、そのうち7本は前半に記録された。アルゼンチンが攻守のバランスを乱した後半だけでなく、前半から好機を作り出していたのだ。
これまで６戦全敗で、ホームでも４連敗という過去の戦績が、アルゼンチンの油断を招いたのだとすれば──今回の結果は、彼らの認識を改めさせるきっかけになる。相手のコンディションが悪くても、勝利をつかめない試合が続いていたのだ。次回の対戦がホームであれ、アウェイであれ、アルゼンチンは勝利を目ざして戦ってくるだろう。彼らのプライドと国内の世論が、日本相手の連敗を許すはずはない。
「あのゲームがきっかけで、アルゼンチンが日本相手に本気になった」と言える日が来れば、この試合は確かな価値を持つ。その意味では確かな前進だが、日本国内の親善試合は相手にエクスキューズを与えてしまう。世界のトップクラスを退けたとしても、額面どおりに結果を受け止められない歯痒さは募る。勝利を必要以上に深追いすべきではないと思うのだ。
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関連情報（BiZ PAGE＋）
1968年生まれ。'91年から'98年まで『サッカーダイジェスト』編集部に所属。'98年秋よりフリーに。2000年3月より、日本代表の国際Aマッチを連続して取材している
