【加部究コラム】本田圭佑の持つ、自信と謙虚さのバランス
結果論だけど、気持ちの入り方が成功の要因だったと、本田は話した。
「ここで勝っても、まだベスト8。終わりじゃないし、まだまだ上がある」
欧州チャンピオンズリーグのファーストノックアウトステージ。セビージャとのアウェイ戦を決勝のような大一番ではなく、あくまで通過点と捉えたことで、心理的にも余裕が出たようだ。そして意識継続を言い聞かせるように、試合を終えても同じ台詞を反復した。
「むしろホッとしていますね。まだベスト8。とにかく次のステージへ行けて良かった」
勝利が決まるとCSKAベンチは優勝並みの大騒ぎだったから、もちろん快挙と感じていないはずはない。だがここで快挙と浮かれていたら終わる。
1得点1アシストで、地元「マルカ」紙の評価も最高の3点満点。それなりに充足感はあるはずなのに「全然自分のいいところを出させてもらえなかった」とか「体が重くて全然走れなかった」と繰り返した。特にマッチアップしたセビージャのボランチ、ゾコラ(コートジボアール代表)に話が及ぶと「フィジカルの強さを継続できる能力が凄い」と感嘆している。
本田もフィジカルの強さは、しっかりと示した。序盤には、ゾコラともう1人に挟まれながら、強引にドリブルで突き進むプレーも見せた(結果的には頑張ったことでタッチが大きくなり外に出た)。一方で終盤に入り、相手も同じように読めるパスをスペースに出されると、ゾコラに先にコースに入られファウルをすることになった。走りやフィジカルを課題にするのは、向上心の表れであり、同時に謙虚に反省点を炙り出しているのだろう。
常に「まだやれる」「もっとやれる」という自負がある。今までは結果が出ない時でも、それを口に出してしまったから誤解を受けることもあったのだろうが、そういう気持ちがなければこの場では戦っていけない。
さらにチャンスへの貪欲さが日本人の中では際立っている。オランダ2部からでものし上がっていこうと欧州へ飛び出し、今度はチャンピオンズリーグ決勝トーナメントを戦うために、自分を最も高く評価してくれたCSKAへ躊躇なく飛び込んだ。
「ロシアでは、5〜6チームが同じような力を持っている。これで日本の人たちも、ロシアリーグに対する見方が変わってくれたら幸せかな」
ロシアは、今欧州で最も急成長を遂げている市場だ。日本人にとって未知の世界だから入っていくには勇気がいるが、賢明な判断だったと思う。本田に先駆けて、この国にはブラジルを皮切りに、あちこちから有望な選手が集まり、レベルが上がり注目度も高まっている。
「こんなに重要な試合が中3日くらいのペースで続く環境でやったことがない」
チャンピオンズリーグが終われば、次は国内リーグ。既に本田は、シーズンを通して、未知の重圧と緊張を継続させなければならない環境の中にいる。欧州のビッグクラブの一歩手前までは到達しているという証だ。
実はCSKAに敗れたセビージャも本田獲得を画策していたが、金額面で折り合いがつかなかったそうだ。それだけではない。もはやスペインを初め、有力国の上位クラブが興味津々で視線を送り続けている。今回は最も好条件を提示したCSKAが獲得したわけだが、次の移籍へのハードルは一気に高まる。
「日本人初」というタイトルには興味がないという本田だが、次の移籍先で活躍できるかどうかは、いよいよ日本人未踏の領域に入ってくる可能性が高い。だがそういう状況でも、依然として確固たる自信と、伸びしろ(反省点)を探す謙虚さをバランス良く備えているあたりが、本田の頼もしいところである。(了)
加部究(かべ きわむ)
近著に「大和魂のモダンサッカー」(双葉社)「忠成〜生まれ育った日本のために」(ゴマブックス)。構成書に「史上最強バルセロナ 世界最高の育成メソッド」。
関連情報(BiZ PAGE+)
スポーツライター。ワールドカップは1986年大会から6大会連続して取材。加部究公式メールマガジン「未蘭の足跡から見えた日本の育成事情」他を配信中