浦和レッズが、香港でなかなかの人気だそうである。香港からの友人を迎えた知人が、日本滞在中にぜひレッズの試合を見たいと、チケットの手配を熱望されたのだという。

 昨年アジアを制した浦和は、クラブワールドカップにも出場し、ミランと0−1の試合をした。浦和はタイでも活動をしているし、こうした浦和の成功の秘訣を探ろうと隣りの韓国からの取材も絶えないそうである。
 
 その昔、日本にプロが存在せず、欧州進出など夢のまた夢だったころ、香港でプロになろうと考える選手がいた。ラモスも一時は香港行きを考えたという話を伝え聞いたことがある。1970年代、プロの香港代表は、W杯予選でも日本に勝利していたのだ。

 そう言えば、97年にW杯予選のためにジョホール・バルに行ったときに利用したタクシーの運転手が、やたらにJリーグに詳しかった。
 
「日本にはレベルの高いプロリーグがあって羨ましい」とのことだった。
 
 Jリーグができて、日本のサッカーが急成長したために、香港やシンガポールは置き去りにされた。確かに立場を裏返せば、Jリーグは羨望の的なのかもしれない。

 しかし置き去りにされた東南アジア諸国でも、決してサッカー人気が衰えてしまったわけでもないし、個人としては光る素材もある。

 例えば4年前には、静岡でU−17アジア選手権が行われたが、日本は中国、北朝鮮、タイと同居したグループを抜け出すことができなかった。それどころか、タイには技術的にも戦術的にも圧倒されていた。もともと細かい技巧には定評のあるタイだが、この試合などは4−3−3でダイナミックな展開を見せ、局面ごとの仕掛けでも日本のDFを完全に翻弄していた。
 
 ようやくJリーグでアジア枠が1つだけ認められるそうである。アジアだから、オーストラリアや中東でも構わないらしいが、できれば貴重な枠ならサッカー熱の高い近隣諸国からの補強が望ましいと思う。

 中田英寿氏がペルージャで活躍したころ、日本のセリエA熱はピークに達した。もしタイやマレーシアの英雄がJリーグで常時主力としてプレーするようになれば、彼らの母国でも話題になり、Jリーグへの関心が広まる。
 
 こうして将来的にはアジア枠(せめて東南アジア枠)が撤廃され、Jがアジア選抜リーグの様相を帯びてくれば楽しくなる。あるいは、育った土壌の異なる素材を早くから連れてくれば、異質を排しがちな日本の育成環境の刺激にもなるし、さらに彼らを上手く伸ばせればクラブとしても大きな財産になる。

 現在鳥取の監督を務めるビタヤ・ラオハクルは、70年代にタイを代表する選手だった。彼は若い頃に日本戦で2ゴールを挙げたのをきっかけにヤンマー(現セレッソ大阪)に誘われ加入するのだが、その後今度はブンデスリーガでプレーをするチャンスを掴む。ビタヤの場合は、タイ代表としてドイツのクラブチームと戦ったことでスカウトされたのだが、もしJに近隣諸国の優秀な選手が集まれば、そこにスカウトの目も注がれ、ステップアップのチャンスも広がる。
 
 今回のW杯欧州予選ではリトアニアがルーマニア、オーストリアを連破して旋風を巻き起こしているが、こうした国の代表選手は既に外国のクラブにリストアップされ、そこで戦力となっている。ボスマン判決により、事実上外国人枠が撤廃されたことで、こうして欧州全体は確実に底上げされている。後進のアジアで手をこまねいていては遅れるばかり。時には近隣から脅かされるよう出ないと、停滞にも鈍感になりがちだ。(了)