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小泉政権時代、規制緩和や郵政民営化など、市場開放を軸に様々な政策が実施された。その首相の打ち出す政策実行の立役者として、常に先頭に立って議論を交わしてきた人物がいる。御存知のとおり竹中平蔵氏である。
小泉氏の退任後、彼は慶應義塾大学で教鞭をとる一方、そのライフワークとして小学校や中学校を訪問し、子供たちを対象にした経済の特別授業を行っている。彼の伝えたいことは何か。今回は、その真相を知るべく、彼が実際に行う授業を追った。


授業の内容と目的
お金の大切さや経済の重要性を子供たちに知ってもらおうと、元総務大臣で慶應義塾大学教授の竹中平蔵氏が
1月10日大妻多摩中学校(東京都多摩市、安川瑛子校長)を訪れ、1年2組の生徒42人に特別授業を行った。
これは、昨年夏にスタートした「竹中平蔵こどもプロジェクト」活動の一環で、竹中氏が日頃から必要性を唱えていた
「経済学の社会教育」を実践するために実施されたもので、昨年7月の沖縄県名護市の名護小学校に続き2回目。
またこのプロジェクトでは、独立系FX(外国為替保証金取引)事業会社最大手の株式会社外為どっとコム
(代表取締役:大畑敏久、本社:東京都)が社会貢献を目的にサポートしている事業でもある。
竹中氏はこの授業の中で、自身が経済学者を目指した理由や海外での体験を交えながら経済の重要性を話すとともに、
身の回りには経済を学ぶことのできる材料が沢山あり、経済には絶対的答えがないが故に、自分の考えを明確にして議論することが大切だと生徒に説いた。
授業を受けた生徒からは、「もっと難しいかと思っていた」や「経済というものを身近に感じた」、
「時間が短かった」などの感想を聞くことができた。

世の中を良くしたい。
竹中氏は授業の冒頭で、自己紹介を兼ねて、なぜ経済学者になることを志したのかについて生徒に話し始めた。
和歌山の古い商店街で、父親が靴を売る商売をしていた家庭に生まれた竹中氏は、小学生の頃、その父親の姿を見て
「一生懸命に働く人たちがもっと豊かな暮らしができるようにしたい」と感じたことや、高校生の頃、
若い社会科の先生から「世の中を良くしたいのなら世の中の基礎を学ぶべきだ。
経済もその一つ」とアドバイスされた話を披露。
そして、大学卒業後に政府系金融機関日本開発銀行(現日本政策投資銀行)に就職したが、
それは所得倍増計画を唱えた故池田勇人元首相のブレーンで経済学者の下村治(しもむらおさむ)氏が当時同行にいて、
彼に一目会いたかったからだと説明した。

経済に絶対的な答えなどない
続く話の中で竹中氏は、生徒たちに経済を考える上で重要である3つのポイントを伝えた。
まず同氏が話したのは、自身が20年前に訪れたタイ、バンコクでのこと。バンコクの水上マーケットに現地大学教授と
視察に出かけた際、乗った8歳にも満たない幼い少女たちが乗った手漕ぎボートが、竹中氏らの乗ったモータボートに近づき、
つたない日本語で「木彫りのゾウを買って下さい」と話しかけられ、その時同行した現地大学の教授から
「彼女たちは貧しいので働かなければならず、学校にも通えないので、一生タイ語の読み書きもできないまま。
日本の子供たちはいいですね。それは経済が強いからだ」と言われたことを紹介し、
「みんなは学校に通うのが当たり前だと思うだろうが、世界では当たり前ではなく、
当たり前でないことを当たり前にしてくれるから、経済は重要なのだ」と説いた。
次に、同氏は自身の大学時代の話に触れ「一橋大学に入学した頃は何を勉強してよいのか分からなかった」と話した上で、
「みなさんが朝起きて、トースターでパンを焼く瞬間も、実は経済と関わりがあり、
トースターは火力発電所で作られた電気でパンを焼いており、燃料の原油はものすごく価格が上昇している。
外国から輸入すれば為替レートの影響もある。つまり経済のない1日はなく、
いつでもどこでも経済を勉強するための題材があるということ」と説き、
経済に興味を持って考える挑戦をして欲しいと呼びかけた。
続いて竹中氏が、子供たちに「少子化で子供たちが減る中、あなたが校長先生ならばどうやって学校を経営しますか」
という問題を出すと、一人の生徒から「授業料を安くして生徒数を増やすことで、収入を維持する」
という意見が出た一方で「授業料を安くして生徒が集まらなければ、さらに収入は減り経営が難しくなるのでは」
という意見が別の生徒から出されるなど、活発な議論がなされた。
そのような議論の中、竹中氏はアメリカのレーガン政権を引き合いに出し、
「1980年代のレーガン政権当時米国では、税率を下げたら税収が減ると言う人もいれば、
税率を下げればみんながいっぱい働いて所得が増えるので税収は増えると言う人もいた。
ここで一番重要なことは、先ほどの議論においては二人とも正解だと言うこと。経済の問題には絶対的な正解はない」と説明、
「学校で習う受験勉強には必ず正解があるが、経済の勉強には正解がない。だから考えることが大事」、
「先生も生徒も関係なく対等な立場で経済問題について議論すべきだ」と訴えた。

あなたが経済アドバイザーに任命されたとしたら
再び竹中氏から子供たちに「あなたがアフリカのある国の経済アドバイザー任命され、
日本のように経済を発展させ豊かな国にしたいと大統領から依頼されたらどうするか」と問題を出すと、
「授業料を安くして境域の機会を増やすべき」、「差別をなくすことが大事」、
「国民の話を聞いてみんなの意見を取り入れるようにすべき」や「技術が重要」、「社会の安定が必要」、
「努力した人が報われる仕組みが必要」などと、生徒たちから様々な意見が出された。
これに対して竹中氏は「皆さんが出した意見は全てつながりがあり、技術を使いこなす人がいれば、社会は安定し、
経済が発展する。このように全てが関係している」と述べ、
最後に、1981年にアメリカのハーバード大学留学中に観戦したボストンマラソンで、瀬古利彦選手が優勝した時、
沿道で観戦していた人々が、「君ならできる(You can do it)」と瀬古選手に叫んで励ましていたことや、
スラム街出身で世界ヘビー級チャンピオンに登りつめたプロボクサーのジョー・フレイザー選手が好きな
「私はできる(Yes, I can)」を取り上げ、「みなさんには、こうした言葉でお互い励ましあい、
応えないながら大切な時間を有意義に過ごして欲しい」と語り、約1時間にわたる特別授業を締めくくった。

規制緩和や民営化など、大胆な手法で市場の開放を進めてきた彼の政策には、市場経済が活性化されたという一方で、
経済格差が広がりを見せ、地域による経済の不均衡を招いたという批判もあり、その評価は賛否両論である。
その竹中氏が、各学校を訪問し子供たちに経済問題を教える理由は一体何なのか。
経済問題という、子供たちには一見難しさを与える議題に対して、身近な問題、話題に触れながら、
物の大切さや人とのつながりの大切さを感じること、そして自分自身の生活のあり方を再度見つめることの必要性を説いているようにも見える。
この授業を追う中で少し、彼の想いが分かり始めたような気がした。
まだまだ彼の真意を知りたい、彼を追う日は続く。
なお、「竹中平蔵子供プロジェクト」では、今後も日本全国で特別授業を実施する予定。
授業開催に興味のある学校関係、地方自治体関係者は、(株)外為どっとコム「竹中平蔵こどもプロジェクト事務局」
TEL03-5733-3061FAX03-5733-3063(受付時間午前9時-午後7時まで)Eメールの場合はplan@gaitame.comまで。