気になる上司にバレンタインチョコを渡したいのに、その上司が部内でバレンタインチョコを禁止しているから渡せないーー。そんな悩みが弁護士ドットコムニュース編集部に寄せられました。

Mさんは都内のIT企業につとめる独身女性(30代)。所属する部をまとめるSさんにバレンタインチョコを渡したいと考えているのですが、そのSさんが部内でバレンタインチョコを渡すことを禁止しているため、悶々とした日々を送っているそうです。

Sさんは20代の若さで部長を任される敏腕で、しかもイケメン。自意識過剰かもしれませんが、バレンタインチョコを野放しにすると、自身にチョコが殺到してしまうことを危惧して部内でバレンタインチョコを禁止しているそうです。

それでもMさんは、今年こそはSさんにバレンタインチョコを渡したいと考えています。そもそも、バレンタインチョコを禁止する社内ルールは有効なのでしょうか。チョコを渡すことで懲戒処分を受けるリスクはあるのでしょうか。労働問題に詳しい古屋文和弁護士に聞きました。

●ルールの有効性を判断するための基準は?

バレンタインチョコを渡すことを禁止する社内ルールは有効なのでしょうか。

「今回のケースでは、上司が部下に対して、バレンタインチョコのやりとりを禁止するルール(以下「本件ルール」といいます。)を作り、それを守るように指示しているという状況ですね。

会社は、企業秩序の維持等のために一定の職場規律のルールを設けることができますが、無制限にルールを設定できるというわけではありません。

今回のケースとは異なりますが、社内ルールの有効性(合理性)についてのいくつかの裁判例を参考にすると、本件ルールの必要性、本件ルールにより労働者が受ける不利益の内容や程度等の事情から、本件ルールの有効性が判断されることになるでしょう」

今回のルールを検討すると、どうなのでしょうか。

「本件ルールの必要性について考えてみると、本件ルールにより、上司に対してバレンタインチョコを渡したい人が殺到してしまうことを防ぎ、業務に支障が生じないようにするという一定の必要性があるといえそうです(前年のバレンタインの際の状況等から、業務に支障が生じる可能性を検討するのが望ましいといえます)。

次に、労働者が受ける不利益の内容や程度等については、チョコレートのやりとりを禁止する対象範囲として、業務に支障が生じることを防ぐために必要な限りであるといえれば、本件ルールは有効だと判断されやすいでしょう」

●懲戒処分を受けるリスクは?

もし、このルールを破った場合に懲戒処分を受けるリスクがあるのでしょうか。

「本件ルールが有効であり、労働者が本件ルールに反した場合には、懲戒処分がなされる可能性はあります。もっとも、懲戒処分は、懲戒事由の内容、結果及び過去の懲戒事例等に照らして相当な範囲でしか行えず、過度に重い懲戒処分は無効となります(労働契約法15条)。

本件でも、本件ルールに違反してバレンタインチョコのやりとりが行われたとして、チョコレートのやりとりの程度(回数、頻度等)、その行為によって実際に企業秩序上の混乱が生じたか、混乱が生じたとしてどの程度の混乱が生じたのかという点は慎重に検討されるべきだと思います。

私見ですが、上司に対してチョコレートを渡したという事実だけで懲戒処分を行うことは、それによって業務に大きな支障が生じた等の事情がない限り、懲戒処分を行うことはできない(懲戒処分が無効になる可能性が高い)と考えます。

ただし、懲戒処分はなされなくとも、会社のルールを守らなかったことが人事考課や賞与の算定に影響することはあり得ます」(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
古屋 文和(ふるや・ふみかず)弁護士
会社側の労働分野及び企業法務分野の案件を主に取り扱っている。経営者向けセミナー(『経営者であれば抑えておきたい会社経営の法的リスク』、『現場担当者のためのクレーマー対策』)にも力を入れている。山梨県弁護士会所属。
事務所名:ひまわり法律事務所
事務所URL:https://bengoshifuruya-law.com/