「THE OUTLETS HIROSHIMA」の外観(筆者撮影)

最近、百貨店、GMS(総合スーパー)の低迷に始まり、ショッピングセンター(SC)も乱立する中、小売業界は勝ち組と負け組の差が鮮明になってきています。

その中でアウトレットモールは開業数を増やし、売上高も伸ばしてきています(一般社団法人日本ショッピングセンター協会によれば、現在全国38カ所)。

2強といわれれるプレミアム・アウトレット(三菱地所)と三井アウトレットパーク(三井不動産)以外にも、イオンが越谷(レイクタウンアウトレット)に次いで今年4月に参入してきました「THE OUTLETS HIROSHIMA」も斬新です。

しかし、今なぜアウトレットなのでしょうか?

お客様から見たアウトレットの位置付け

1993年に日本初のアウトレットモールが開業して以降、日本各地に続々と大型アウトレットが誕生しました。

日本人が過去からアウトレットを利用してきた理由は、百貨店顧客層がラグジュアリーブランドの商品を定価で百貨店で買わなくなった(もしくは買えなくなった)人たちが流れているからです。

彼らは生活の質を落としたいわけではなく、ブランド物の型落ち商品でもあまり見た目が変わらなければ、安く購入できるアウトレットで十分と考えています。一方で、ブランド物の価値をわからない、認めない方たちにはいくら安くても無用の長物であることも確かです。

全国百貨店売上高が1991年のピーク時9兆円を超えていた頃から、6兆円割れとなった現在、よく言われるEC(ネット通販)やSC(アウトレット以外)に取られたというのはまったく間違いで、業界全体の売上額の伸びた金額と落ちた金額での比較にすぎません。

ラグジュアリーやブランドを志向する顧客層が百貨店で買わなくなった理由は、価格以上の価値が見いだせていない、この一言に尽きるのです。ピーク時から20年以上を経て、お客様に対する売り方・見せ方に変化が起きてきているのに、百貨店業界が対応しきれていないだけなのです。


2017年4月に開業したギンザシックス。出店するテナントから賃料を受け取る仕組みで、まさに高級ファッションビル(FB)といえる(編集部撮影)

この百貨店顧客層の売り上げを確保する手法として、GINZA SIX(リアルの売り方の変化を示した高級FB)と、STRIPE DEPARTMENT(ストライプデパートメントが2018年2月から展開する大人のためのECモール)が挙げられますが、まだまだこれから挑戦段階なのです。

この2つのTRYはこれからどう広がりを見せるのかも筆者にとっては楽しみの1つです。このようなTRYを試みていかないと百貨店顧客層は百貨店で買うものがなく、アウトレットでも構わない状態になってしまいます。

またアウトレットでは最近ファッションビル系(FB)のルミネやパルコなどに出店するブランドや、SCブランド(FBとSCは顧客層が異なる)のお店まで出店しています。前出のラグジュアリーブランドを求める顧客層とはまったく一線を画した顧客層もアウトレットが取り込んでいます。

これはFBやSC内に出店するお店に魅力を感じなくなってきていることと同義であり、上記SCが低迷しつつあることの表れともいえます。

インバウンドにとってのアウトレットとは

片や年々増加するインバウンド層の動きも顕著です。今まで訪日中国人を中心に百貨店でラグジュアリーブランドなどを購入してきたインバウンド顧客層はそのままでも、ビザの緩和やLCC(格安航空会社)の就航などもあり、その下の中間層までが来日してきています。

百貨店で購入できるのは化粧品のみという人たちが、衣服はアウトレットで購入する動きも見られます。これまで彼らは日用品等の購入については、街中のドラッグストアで購入していました。それが、今やアウトレットの中にマツモトキヨシが出店しているくらいなのです。

三井アウトレットパーク入間や幕張などですが、アウトレットだからと言って格段に安くはありません。このような出店戦略は、インバウンドのお客様にとって利便性のある買い物ができることを意識しているのです。

最初から訪日外国人が増加するからと期待するのではなく、誰が・どのような属性の人が来日されるのかが重要なのです。

アウトレット内でのワンストップショッピングで済ませられるので、観光がメインになっても不思議ではありません。これからのアウトレットは、ファッションのみではなく、食・住にまでテイスト軸を持った編集能力も期待されます。特に飲食を増加させ、1日楽しめる館にすることも重要でしょう。

アウトレットでこのようなことまで対応できているのなら、百貨店やGMSももっと顧客に寄り添うことが望まれているのです。現在百貨店の化粧品も伸びてはいますが、中間層向けの化粧品店が今以上にアウトレットに出店されれば、現在の伸びは鈍化することは目に見えています。これからは、日本の百貨店に憧れて来る人を定着させ、他のカテゴリーにまで広げる顧客対応が必要不可欠でしょう。

最近OPENしたイオンが展開する「THE OUTLETS HIROSHIMA」は、飲食比率が低く、内接するイオンでカバーしています。

これは、神戸三田プレミアム・アウトレットと道路を挟んだオーバーブリッジのイオンモール神戸北(SC)の横連携を自社内で縦連携に置き換えたもので、お互いの補完が偶然できていたコピーともいえるでしょう。

本来はアウトレット単体でのワンストップショッピングであってほしいのですが、同じグループ内での補完は相乗効果を生み出します。

上記の神戸北は平日でも軽乗用車などで駐車場が埋まっており、食品の買い物客で安定しています。「THE OUTLET HIROSHIMA」もそうなることを期待します。

また、三井アウトレットパーク 北陸小矢部(富山、2015年7月開業)も、北陸初のアウトレットです。


三井アウトレットパーク 北陸小矢部の外観(筆者撮影)

周りに何もない最寄駅(石動)からバスでわずか9分のところにあります。館の内容(ショップ)自体はラグジュアリーとべーシックのバランスもこの地域に合わせられています。

ですが、筆者の印象では、外観は米国の砂漠の中にあるアウトレットのような派手な配色であり、海老名駅前のSCのようです。

このように活況を呈してるというアウトレットでさえ、修正箇所が散見され、改修することにより、大きな売り上げも見込めます。もちろん、館を造る前にやるべきではないことがわかっているケースも多く見受けられ、まだまだ伸びしろがあります。

お金を支払っているのは地域のお客様であり、“小売業はお客様との心理戦”(前セブン&アイHD代表取締役会長の鈴木敏文氏の言葉)なのです。

道義を優先すれば、利益は後からついてくる

売り上げはお客様の評価バロメーターであり、営業利益額や利益率は経営者への評価バロメーターです。

売り上げが伸びても利益額の取れない企業が多いのも実態です。利益率も小売業平均は他業種と比べても現状低いのです。他業界も参考にしながら、高収益に向かっていただきたいのです。儲けないと小売業の本質である「先義後利」の継続ができないからなのです。

売り場以外にはヒントとマネーが落ちていないのですから、常に現場でヒントや気付きを見つける知力と、それを拾う体力を身につけることが企業を維持向上させていく重要なファクターなのです。

マーケティング力とマーチャンダイジング力、プロモーション力、そしてマネージメント力のバランスのいい経営力が必要といえるでしょう。

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