お金に苦労せず、幸せに生きていくことを目指すこの連載。今回の相談は合田絵里子さん(仮名・45歳  派遣社員)の相談です。

「現在、美容商材PRやボイストレーニング講師など、複数の仕事を掛け持ちしています。勉強することも多く、現在の収入はさほど多くありませんが、似たような働き方をされている先輩方は会社を設立しています。ご本人たちからは、いくら稼いでいるのかは教えていただけていませんが、節税などもできるようで……。そこで相談です。フリーランスとして、どのくらいの年商があれば、会社にしたほうがいいでしょうか。また、その場合の手続きはどうなりますか?」

働き方の多様化に伴い、フリーランスで活躍する人も増えています。また、高齢化もあいまって、フリーランス人口は今後ますます増加する見通し。現在は会社員として働いている人たちの中にも近い将来に自身のキャリアを生かして独立できれば……と考えている人も多いと思います。そして、最近では起業する女性も多く、「自分の会社を持ちたい」が身近に思える環境になっています。実際のハードルは本当に低いのでしょうか。森井じゅんさんに聞いてみましょう。

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相談者さんはフリーランスでお仕事をされているとの事。個人事業主としてやっていらっしゃるんですね。今回はまず、会社を設立する手続き、費用、メリットについてお話します。そして次回、「会社設立が節税になるのか」について説明していきます。

会社を設立すると個人事業主よりも仕事の契約が増える?

「会社を設立する」とは、会社の設立を登記することです。具体的には、管轄の法務局に会社名や会社の目的、役員名など法律で定められた事項を登記申請します。登記が行なわれることで、はじめて会社として成立することになります。

登記とは、会社の重要な情報を世間に公開するために、登記簿に記載すること。つまり、登記が行なわれれば、いつでも誰でも、その会社の登記事項を調べられます。こうした公開制度のため、取引等においては、一般的に個人事業主よりも会社と契約する方が安心と考えられているのです。

「会社」とひと言で言っても、現在日本では「株式会社」「合同会社」「合名会社」「合資会社」の4種類があります。今回はこの中で9割以上を占める株式会社についてお話します。

会社設立には最低でも20万円程度の法定費用がかかる

株式会社設立の大まかな流れは、定款作成→定款認証→設立登記申請となります。ちなみに、定款とは、その会社の基本的かつ重要な事項をまとめたもの。会社が今後どのような事業を行ない、どのように運営されていくのかといった決まりが記載されます。株式会社設立の場合、この定款は、公証役場で公証人の認証を受ける必要があります。そして認証を受けた後、様々な申請書類を準備し登記申請を行なうのです。

さて、株式会社設立にかかる費用ですが、定款を紙で作成するのか電子的に作成するのかで変わってきます。定款にかかる費用は、公証人手数料5万円、謄本費用2000円程度のほか、紙の定款に貼る印紙代4万円がかかります。紙の定款でなく、電子定款とする場合には印紙代は不要です。また、株式会社設立の登記にかかる登録免許税は、資本金の額により変わってきますが最低15万円です。

これらを合計すると、紙の定款の場合は24〜25万円程度、電子定款の場合は20〜21万円程度が最低限の法定費用となります。ちなみに、電子定款では印紙代4万円が不要になりますが、電子定款を作成するためには専門家に任せるか、ご自身でICカードリーダやPDF加工ソフトなどを準備する必要があります。

そして、無事登記が完了し会社を設立させた後は、税務署や社会保険事務所など諸々の行政機関に法人の設立に関する届け出をします。そこから「会社」がスタートします。手続きは面倒なイメージがあると思いますが、専門家を利用せず、ご自身で行なう事はもちろん可能です。むしろ、ご自身で行なうことで、事業内容や会社の方向性についてしっかり考えるチャンスにもなります。

株式会社設立に必要な資本金は「1円以上」

以前は株式会社の設立には、最低1000万円の資本金が必要でした。そのため、まずは個人事業での事業を開始し設立資金を蓄えるか、事業を通じて信頼を得て、融資をうけて株式会社を設立する、というのが一般的でした。しかし法律が変わり、現在は資本金1円以上で株式会社が設立できます。

確かに、対外的な信用や、融資を受ける場合等を視野に入れると、資本金はある程度あった方がいいという考えもあります。しかし、設立当初は小さな資本金からはじめる、という選択肢もできるようになったのです。

会社を設立するメリットは?

では、公に事業内容や情報を公開し、コストや手間をかけ会社を設立するメリットは何でしょうか。

信用

まず、一番大きなメリットは信用でしょう。上で触れたように、情報の公開があるからこそ、個人事業主よりも信頼を得やすいという面があります。「取引先から法人にしてほしいと要望があったので株式会社を設立した」というケースもよくあります。特に、大手の企業や大きな金額の取引を行なう場合には、企業側が個人事業主と契約することを避けるケースもあります。

また、人材を募集する場合にも、人を集めやすいと言えます。ビジネス拡大を考えているのであれば、株式会社化するのは大きなメリットとなるでしょう。

また、少し視点が変わりますが、親類や婚約者の家族などへのアピールとして株式会社にする方もいらっしゃいます。株式会社を設立して自身が役員に就任すれば、「会社役員」です。個人事業主よりも信頼性があると考える人もいるようです。

有限責任

個人事業主は「無限責任」である一方、株式会社は「有限責任」です。個人事業主の無限責任とは、事業で負債を負った場合に、個人の財産を持ち出しても弁済する義務があることです。株式会社では、例えば会社が倒産しても「出資額を限度とした責任」となります。つまり、会社設立にあたって出資した金額は戻りませんが、それ以上の責任を負わずに済むのです。ただし、金融機関から融資を受ける場合などでは、代表者個人の保証を求められることが多く、その場合、事実上は「無限責任」になりますので注意が必要です。

融資

「個人事業よりも法人の方が融資を受けやすいから」という理由で会社設立をされる方もいらっしゃいます。確かに、個人事業よりも株式会社など法人組織の方が、一般的に社会的信用が高いと言えます。ただし、上で触れたように、資本金の面でも株式会社の設立は容易になっていることもあり、株式会社にしただけで借入が簡単になるというわけではありません。金融機関が融資の審査するにあたり、最も重要視されるのは、事業内容や事業計画、資金繰り計画です。融資を受けたいと考えるのであれば、法人・個人という形式ではなく中身が大切です。

終身雇用制度が崩壊しつつあるとも言われる現代。「生涯働きたい」人ほど、キャリアアップ転職だけでなく、独立起業が視野に入ってくる傾向が。



■賢人のまとめ
会社設立には、費用が最低でも20万円以上かかります。一方で、信用問題や有限責任、融資などにおいてのメリットは小さくありません。手続きは面倒なイメージがあると思いますが、専門家を利用せずご自身で行なう事はもちろん可能です。むしろ、ご自身で行なうことで、事業内容や会社の方向性についてしっかり考えるチャンスにもなります。しかし、株式会社の設立は容易になりましたが、忘れてはいけないのが、会社を閉じるときにもコストがかかるということ。会社設立を考えるのであれば、設立後、どのように事業展開をし会社を運営していくのか、しっかりシミュレーションをしてみましょう。

■プロフィール

女子マネーの達人 森井じゅん

1980年生まれ。高校を中退後、大検を取得。レイクランド大学ジャパンキャンパスを経てネバダ州立リノ大学に留学。留学中はカジノの経理部で日常経理を担当。

一女を出産し帰国後、シングルマザーとして子育てをしながら公認会計士資格を取得。平成26年に森井会計事務所を開設し、税務申告業務及びコンサル業務を行なっている。