2018年4月、陸上自衛隊が大規模な組織改編を実施しました。AAV7、MV-22B「オスプレイ」、16式機動戦闘車といった新しい装備も配備されます。具体的にどのように変わったのか、その背景を含め解説します。

いままでなかったのが不思議? 「陸上総隊」発足

 2018年4月、陸上自衛隊は、創設以来最大規模となる大改編を実行しました。部隊新編及び改編、新装備の運用開始と、それはまさに「自衛隊大改革」と言っても過言ではないでしょう。


2018年4月の陸自改編にて創設された水陸機動団の、新編行事における訓練展示の様子。陸上総隊の隷下部隊になる(2018年4月7日、菊池雅之撮影)。

 その大改革の目玉となったのが、「陸上総隊」の創設でした。

 陸上自衛隊は、日本列島を5つに区切り、北から北部方面隊、東北方面隊、東部方面隊、中部方面隊、西部方面隊を配置しています。各方面隊は、師団や旅団と言った作戦基本部隊を持っています。陸自は、師団や旅団単位で戦闘する戦術としています。

 この度の改編で、5個方面隊を合理的かつ迅速に機能させるため、一元的に取りまとめる総司令部を作ることになりました。それが「陸上総隊」です。


陸上総隊新編行事の様子。今回の組織改編にあわせ、制服も一新された(2018年4月4日、菊池雅之撮影)。

 方面隊を俯瞰する司令部を置くことで、指揮統制能力は格段に向上されます。管轄エリアにとらわれず、陸海空自衛隊による統合運用を効率的かつ合理的に行う事が出来るからです。

 実は、海上自衛隊は「自衛艦隊」、航空自衛隊は「航空総隊」と、それぞれ総司令部を有してます。陸自だけが欠落していたという不思議な状況でした。これにより、陸海空自衛隊の司令部の横軸が通ることになりました。円滑な統合運用が可能になると期待されています。米軍との調整も陸上総隊が行う事で、共同作戦についてもシームレスに行えるでしょう。

前身は海外派遣で活躍した「中央即応集団」

 このように画期的な「陸上総隊」ですが、ゼロから作られたわけではありません。

 前身となったのが、2007(平成19)年3月28日に創設された「中央即応集団」です。司令部は朝霞駐屯地(東京都練馬区)を経て、座間駐屯地(神奈川県相模原市)に置かれました。方面隊のように防衛警備担当エリアを持たないのが特徴です。よって、日本国内はもとより、海外での活躍も期待されていました。実際に任務を遂行するのが、「中央即応集団」隷下部隊である、「第1空挺団」「第1ヘリコプター団」「中央即応連隊」「特殊作戦群」「中央特殊武器防護隊」「対特殊武器衛生隊」「国際活動教育隊」です。


陸上総隊新編行事の様子。特殊作戦群の隊員は任務の性質上バラクラバ(目だし帽)を着用し、顔を隠していた。(2018年4月4日、菊池雅之撮影)。

 2018年3月26日、中央即応集団はその歴史を閉じました。そして拡大改編され、指揮機能を拡充し、翌3月27日、陸上総隊として発足しました。最期の中央即応集団司令官である小林茂陸将が、陸上総隊の初代司令官に就任しました。司令部庁舎は、朝霞駐屯地となりました。

 小野寺五典防衛大臣も参列し、4月4日に陸上総隊新編行事が行われました。新しい門出に相応しく、整列する全隊員が新制服を着用していました。

 陸上総隊直轄部隊として、中央即応集団隷下部隊がそのままスライドしてきました。これに、「水陸機動団」「システム通信団」「中央情報隊」が新たに加わりました。

日本版海兵隊「水陸機動団」誕生の背景

今回の大改編のもうひとつの目玉が「水陸機動団」の創設でしょう。


4月7日、相浦駐屯地にて開催された水陸機動団新編行事の様子。2100名が配属された(2018年4月7日、菊池雅之撮影)。

 2018年現在、中国は軍拡を押しすすめています。2隻目の空母の完成、ステルス戦闘機J-20の配備など、東アジア全体のミリタリーバランスを大きく変える状況にあります。

 日本の南西諸島部が奪われる可能性すら出てきました。事実、尖閣諸島周辺では、毎日のように中国公船による嫌がらせに近い示威行為が行われています。また宮古島周辺を中国海軍が行き交い、中国軍機が飛行することも珍しくなくなりました。

 東西冷戦当時、仮想敵国ソ連を目前に控えていた北海道が最前線でした。そこで、当時最新式であった90式戦車を配備し、普通科(歩兵)、特科(大砲)などを装甲車化するなど、北方重視の防衛体制を構築してきました。その一方、沖縄本島以南には、陸自は部隊を配置していませんでした。

 九州・沖縄地域を防衛警備する西部方面隊は、南北1200km、東西900kmと方面隊のなかで最も広大なエリアを担当しています。そのなかには、有人、無人合わせて2600個もの島々があります。これらすべてに部隊を配置する事は現実的ではありません。そこで、敵が日本へと侵攻してくる兆しを見せたら、輸送艦に飛び乗り、島嶼部へと速やかに進出する部隊が必要となりました。時すでに遅く、敵の手に落ちてしまったとしたら奪還しなければなりません。

 こうした任務に当たるため、島嶼防衛部隊を作りました。それが2002(平成14)年3月27日に相浦駐屯地(長崎県佐世保市)に誕生した西普連こと、西部方面普通科連隊です。

 西普連は米海兵隊の下、水陸両用戦をイチから学んでいきました。さらに部隊を拡大し、まるで米海兵隊のような組織を作ることが決まりました。それが、今年3月27日に誕生した水陸機動団です。4月7日、司令部のある相浦駐屯地にて、山本朋広防衛副大臣より初代団長を務める青木伸一陸将補へと隊旗が授与されました。

水陸機動団はどんな組織?

 水陸機動団は、「団本部」及び「本部付隊」、「第1水陸機動連隊」「第2水陸機動連隊」「戦闘上陸大隊」「特科大隊」「偵察中隊」「施設中隊」「通信中隊」「後方支援大隊」「水陸機動教育隊」からなっており、人員約2100名で構成されています。このうち「第1水陸機動連隊」は西普連からの改編で、「第2水陸機動連隊」は新たに作られました。来年度以降には、「第3水陸機動連隊」も新編されます。


水陸機動団新編行事の訓練展示にて、主要装備の水陸両用車AAV7(2018年4月7日、菊池雅之撮影)。

 水陸機動団の主要装備となるのが、水陸両用車AAV7です。「戦闘上陸大隊」へと配備され、水陸機動連隊とワンセットで着上陸戦に用いられます。海自佐世保基地に近い場所に崎辺分屯地(長崎県佐世保市)を建設し、2018年2月から駐屯する計画でした。しかし、作業が遅れているため、しばらく相浦駐屯地または玖珠駐屯地(大分県玖珠町)に置かれます。完成次第移駐します。

 水陸機動団の空の足として期待されているのが、MV-22B「オスプレイ」です。すでに日本向けの機体は、米テキサス州アマリロにあるベルヘリコプター社の工場で完成しており、2017年8月頃から飛行試験が開始されています。しかし肝心の配置場所が決まっていません。佐賀空港にオスプレイ基地を作る計画があるのですが、地元との合意には至っておらず、宙ぶらりんの状態です。

「速さ」目指す改編を体現、即応機動連隊と16式機動戦闘車

 師団や旅団も大きく変わります。今後5年間をかけ、7つの師団や旅団について、機動展開能力を高めた機動師団及び機動旅団へと改編されます。

 手始めに、今年度より、第8師団(北熊本)と第14旅団(善通寺)が機動師団・旅団とされました。これにともない、第8師団の第42普通科連隊を第42即応機動連隊に、第14旅団の第15普通科連隊を第15即応機動連隊としました。


第8師団改編行事にて、福田政務官より第42即応機動連隊旗が授与された(2018年3月31日、菊池雅之撮影)。

第42即応機動連隊の新しいシンボルマーク(2018年3月31日、菊池雅之撮影)。

第8師団の第8戦車大隊は廃止され、その代わりに第42即応機動連隊に16式機動戦闘車が配備された(2018年4月22日、菊池雅之撮影)。

 機動師団/旅団化ということで、移動に時間がかかる戦車や大砲を潔く廃止しました。その代わりに、即応機動連隊のなかに機甲科や特科といった諸職種部隊をパッケージ化し、即応能力を高めたのです。部隊の編成は、「連隊本部」及び「本部管理中隊」、「第1中隊」「第2中隊」「第3中隊」「機動戦闘車隊」「火力支援中隊」となります。これまで師団にあった戦車の代わりとなるのが16式機動戦闘車です。「機動戦闘車隊」に配備されました。一般道を100km/hで自走でき、C-2輸送機にも搭載可能です。

 新編された各部隊は、錬成訓練に入っています。陸上総隊は、「水陸機動団演習」として早速、陸海空統合訓練を実施します。5月8日から護衛艦「ひゅうが」や輸送艦「しもきた」に水陸機動団を乗せ、5月末に種子島(鹿児島県)で大規模な上陸演習を実施します。

 ふたつの即応機動連隊も、実弾射撃を含んだ訓練が計画されています。今年の8月には、富士総合火力演習に参加する予定です。

 新生陸上自衛隊は、大きく動き出しました。

【写真】さらにスピーディに、第15即応機動連隊の16式機動戦闘車


第15即応機動連隊の16式機動戦闘車。写真左の砲のない車両は96式装輪装甲車。戦車には難しいスピーディな展開を目指す(2018年4月1日、菊池雅之撮影)。