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どれだけ論理的に物事を考えられる人でも、「話し方」に問題があればチャンスを逃してしまう。「プレジデント」(2017年12月18日号)では、6つの場面別に「相手が気持ちよくなる言い方」を紹介しています。第3回のテーマはNHKの「サラリーマンNEO」や連続テレビ小説「あまちゃん」の演出家による「知らない人ばかりのパーティ対策」です――。

■「場を盛り上げる」と「会話を弾ませる」の違い

見知らぬ人ばかりのパーティが苦手なのは、「人によく思われたい」という意識が先に立つからでしょう。だったらそれを「人をよく知りたい」に変えたらいいと思います。自分を知ってもらう前に、まずは“人のことに興味を持つ”ようにするのです。

パーティでは、名刺交換をする機会が多いかと思いますが、まずは肩書に注目。最近は長すぎる肩書が多いので、それが何なのかを聞いてみましょう。僕はよく「プロデューサーという肩書なのに、なんで監督をしているんですか?」と聞かれるのですが、そのように疑問に思ったことを素直に聞くのもいいですね。肩書以外では、名前の漢字、会社名など、思い入れがありそうな部分に触れると話が弾みます。

よく、話し下手だからと人前に出ることを尻込みする人がいますが、質問は素朴な一言でいいんです。会話を弾ませることと、その場を盛り上げることは全く違います。弾むというのは、相手が楽しくおしゃべりをするということ。自分1人が一方的に楽しく話しても、実は会話は全く弾んでいないんです。

たとえば、「お仕事は何ですか」と聞いたとします。よくあるのが、その仕事について自分が知っていることを一生懸命話してしまうケース。相手はその仕事のプロなのに、プロに対して説明しちゃっているわけです。よく考えたらおかしな話です。

ではどうやって会話を弾ませるか。仮に相手が「ひげ剃りを作る仕事」をしているなら、「2枚刃とか3枚刃ってありますけど、あれってホントに意味があるんですか?」といったふうに、普段思っている疑問を素直に聞けばいい。自分の仕事に興味を持たれて嫌な人はいませんよね。そうやって相手に気持ちよく話してもらえる環境をつくることが大事なのです。そうすれば、質問が9割で、自分のことを話すのはたった1割でよくなります。それなら話し下手の人でも会話上手になれるはずです。

■相手から聞かれたことは、そのまま聞き返してあげる

これは鉄則ですが、「人に聞くことは自分が聞かれたいこと」なんです。たとえば相手が「ゴルフをしますか?」と聞いてくるのは、その人がゴルフに興味があるから。もっと言うと、自分が話したいからなんです。なのにカン違いして、聞かれたからと延々とゴルフのことを話してしまうと、相手にしたら面白くないわけです。だから、相手から聞かれたことは、そのまま相手に聞き返してあげればいい。「私はほとんどやりませんが、○○さんはお好きですか?」といった感じで、相手から聞かれたことについて、どんどん質問したらいいんです。

よくいるのが、相手が謙遜したのを真に受けて、それ以上突っ込まない人。それはもったいないです。そもそも最初から自慢する人なんていませんよね。ですから、相手が謙遜してきたら「この人は自慢したいんだな」と察知して、「40代で部長って、やっぱり早くないですか?」「若い頃にヒット作を手掛けたんですか?」といったふうにどんどん深掘りしてあげるべきです。もし「ヒットなんて特に……」と謙遜されたら、「いや〜、絶対あるでしょう」とダメ押しして深掘ってあげると、必ず自慢の種が出てきます。相手も嫌な思いはしませんから、どんどん深掘っちゃっていいと思いますよ。

謙遜はレシーブですから、すかさずこちらが深堀りというトスを上げれば、自慢という強烈なアタックが返ってくるはず。そうなれば、あとは相手の華やかなストーリーが展開されていくことでしょう。ドラマはドラマでも壮大な大河ドラマが待っていますから、場はかなり持つと思います。

年齢の話もそう。もし女性のほうから年齢の話が出たら、「若い」と言ってほしい合図だと捉えるべき。自分の年齢を伝えた後は余計なことは一切言わず、「本当に失礼ですが」と前置きして年齢を聞き、「そんなふうには見えない!」と驚きながら言えばいいんです。その後は「○○世代ですか?」とか「学生時代はどのへんで遊んでたんですか?」みたいな話に持っていくことができ、会社員同士の仕事上の関係ではなく、個人的な関係を深めていくことができます。

■感情が動いた場面には、面白いドラマがある

質問の苦手な人は、“衣食住”に話を持っていくといいですよ。たとえば相手が東大卒だったとしましょう。そのときに、「東大=頭がいい」というそのままのイメージで返してしまうと、あっという間に会話が終わってしまいます。

そんなときは、ひとまず東大を「俯瞰」してみましょう。鳥になった気分で、東大を上空から見てみるのです。すると本郷という地名が浮かんできて、「本郷のあたりの美味しいお店」について聞けるわけです。特に「衣食住」の話は、みんな何かしらのこだわりがあって話しやすいテーマなのでオススメです。

もう1つ効果的なのが、相手が何か言ったことに対して、嬉しいとか苦しいとか感情が動いたような部分を質問してあげること。たとえば「高校時代に野球をしていた」と言われたら、「レギュラー発表のときって、どんな気持ちですか?」など、感情が動いたであろう場面を聞いてあげる。地方出身の人なら「上京するときに、駅で片道切符を買いましたよね。その瞬間って、どんな気持ちになりましたか」とか。感情の変化の裏には必ずドラマがあるんです。そこを掘り下げていくと、相手にとっての大切な記憶が思い出されたりする。こうした話は盛り上がるものです。

■欠点や具体性のある、自己紹介は心に残る

パーティで困りがちなのが「自己紹介」ですが、これは真面目にやるか、ふざけるかのどちらかに振ったほうがいいでしょうね。ふざける際に一番いいのは“欠点”に触れること。髪が薄いなら「性格も頭も明るいです」みたいな感じです。

真面目にやるなら“具体性”が大事。僕だったら「サラリーマンNEOでセクスィー部長やってました」とか。自己紹介は、自分すごいぞとアピールをするためではなく、相手が話しかけやすくなる「きっかけ」を与えるためにするものです。「営業をやってます」だけだと情報がなさすぎて、かえって相手が話しかけにくくなってしまいます。かといって情報がたくさんありすぎても、相手が混乱して覚えてもらえなくなる。球は1つでいいので、具体的なものを与えるといいですよ。

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吉田照幸(よしだ・てるゆき)
NHKエンタープライズ制作本部番組開発エグゼクティブ・プロデューサー
1993年NHK入局。「サラリーマンNEO」の企画・演出、連続テレビ小説「あまちゃん」の演出を担当。公開番組できたえた前説に定評があり『「おもしろい人」の会話の公式』という著書も。監督を務める東映映画「探偵はBARにいる3」が12月1日に公開予定。

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(NHKエンタープライズ制作本部番組開発エグゼクティブ・プロデューサー 吉田 照幸 構成=志村 江 撮影=和田佳久 写真=iStock.com)