ビール瓶で殴るのも殴られるのもお断り

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ビール瓶で頭を殴ったか否かが角界の騒動になっている。事態の真偽はさておき、映画やドラマで使用されている小道具のビール瓶は頭を殴れば綺麗に割れるが、本物のビール瓶で殴ればただでは済まない。

実際に殴ってどの程度の威力なのか検証するわけにはいかないが、ツイッター上で2009年にビール瓶の威力を検証した研究が発表されており、その年にイグノーベル平和賞を受賞していると話題になっていた。

頭蓋骨より硬いことが証明されているビール瓶

イグノーベル賞を企画運営している科学雑誌「Improbable Research」のサイトを確認したところ、確かに2009年にスイスのベルン大学の研究チームが行った「Are full or empty beer bottles sturdier and does their fracture-threshold suffice to break the human skull?(ビールが入った瓶と空の瓶のどちらが頭蓋骨を破壊できるか、十分な骨折閾値を有するか検証する)」という論文が平和賞を受賞していた。

論文のタイトルがほとんど実験の中身を示しているが、一体どのような内容なのか。

筆頭著者のシュテファン・ボリガー博士はベルン大学の法医学者で、研究の動機について「裁判でビール瓶のダメージについて問われることがあったため」としている。論文が掲載された学術誌「Journal of Forensic and Legal Medicine」も法医学分野の学術誌だった。

実験に用いられたのはスイスで販売されている「Feldschl?sschen Original」という500ミリリットル入りの瓶。空の瓶は391グラム、フルボトルは898グラムで、瓶の厚みは約0.2センチとされている。ちなみにビール酒造組合によると日本の空の中瓶は約460グラムとされており、実験で使用された瓶より重く、恐らく厚みもあるだろう。

ボリガー博士らはこの2種類の瓶を、衝撃測定装置を埋め込んだ粘土の上に設置。高さ2〜4メートルから、重さ1キロの鉄球をビール瓶の最も弱いと思われる部分(細くなった首の部分下3分の1)に投下し、瓶が一定の衝撃で叩きつけられた際、頭蓋骨を骨折させるだけの十分な強度を持っているか測定した。

その結果、空瓶は40ジュール、フルボトルは30ジュールの衝撃まで割れずに耐えており、この衝撃値は頭蓋骨が耐えられる数値を軽く上回っていたという。つまりビール瓶のほうが頭蓋骨より硬いのだ。

質量差があるため、頭蓋骨に叩きつけられる際のエネルギーは、フルボトルのほうが70%ほど大きいが、どちらも頭蓋骨を骨折させるだけの十分な威力があり、平均的な体格の男性が空瓶を握って誰かの頭を殴れば重傷を負わせられると結論づけられている。

同じような実験はディスカバリーチャンネル系の番組、「MYTHBUSTERS(怪しい伝説)」の2010年シーズン・第5回放送「Bottle Bash」でも行われていた。

こちらは人の頭部を模した模型を作り、頭蓋骨骨折や脳へのダメージを与えるのに空瓶とフルボトルどちらが効果的かを検証。頭蓋骨骨折はどちらの瓶も可能だが、脳へのダメージという点でフルボトルが優れているとの結果となっていた。

実際には骨折よりも裂傷が致命傷?

ビール瓶の威力は十分に理解できたが、実際にビール瓶で殴られ頭蓋骨を骨折したという例は多いのだろうか。

法医学分野の学術誌をいくつか見てみると、1992年にケルン大学の法医学者らが発表した「Skull Injuries Caused by Blows With Glass Bottles(ガラス瓶で殴打された頭蓋骨の損傷)」という論文があった。

内容はビール瓶やワインボトル、ビアジョッキなどのガラス瓶で頭部を殴打され重大な傷害を負ったり、死亡した場合の原因を調査したものだが、興味深いことに頭蓋骨骨折や重度の脳挫傷などは死因になっておらず、むしろまれな損傷であるとされていた。

ガラスの弾力性や殴打した位置、被害者の髪の量、頭皮の厚さ、頭蓋骨の形状と厚さ、骨の弾力など様々な要因があるため、殴っただけで頭蓋骨が骨折することは珍しく、先に瓶が割れる場合も少なくないというのだ。

むしろ致命傷になるのは、割れたガラス瓶が鋭利な刃物として頭部に負わせる裂傷となっており、傷口からの出血によって死亡した例が多かったようだ。25年前の研究なので今とビール瓶状況(?)は異なるかもしれないが、いずれにせよ注意が必要だ。

殴る側として実践するのは論外だが、お酒の席で揉めそうになったときは、まずガラス瓶類を片付けておいた方がいいだろう。