東急の株価「失速」 投資家が注目する「京急との違い」
東京急行電鉄の株価が反転上昇のきっかけをつかめず、年初来安値を連日のように更新している。業績自体はさほど悪くないのだが、運輸業界にあって訪日外国人の需要を十分に取り込めていないと見られているうえ、不動産の需給悪化懸念を抱えるとされるためだ。
週明け9月11日(2017年)には取引時間中に1566円まで値を下げ、9月4日(1571円)以来、1週間ぶりに年初来安値を更新した。11日は北朝鮮の挑発行動への警戒が薄れ、日経平均株価が終値で270円高となるなかでの逆行安だった。「東急電鉄の先行きを危ぶむ見方が改めて強まった」(国内大手証券)との声が聞かれた。12日は1581円で引けたが、反転の勢いは感じられない。
「定期以外の運賃収入」の動向
直近の業績である2017年4〜6月期連結決算は、まずまずの内容だ。売上高(営業収益)は前年同期比5.1%増の2835億円、営業利益は26.0%増の288億円、純利益は9.2%増の203億円。東急電鉄によれば、不動産販売業が堅調に推移したことが寄与している。実際、不動産事業は4〜6月期に売上高が20.1%増の502億円、営業利益は54.2%増の133億円と堂々たる稼ぎ頭である。本業の交通事業も売上高が2.7%増の515億円、営業利益は6.0%増の95億円で、一応増収・営業増益となっている。
投資家が気にしているのは7月の数値だ。東急の鉄道運賃収入は前年同月比0.5%増にとどまった。4月(2.5%増)から5月、6月、7月と伸びが鈍化し続けている。一方、東急と同様に東京都と神奈川県を結ぶ主力路線を持つ京浜急行電鉄の7月は2.0%増だ。京急も4月(2.9%増)から5月、6月と伸びが鈍化していたが、7月で持ち直した格好だ。
この違いは「定期以外の運賃収入」が生み出しているとみられる。東急の定期外は4月(2.3%増)、5月(0.8%増)、6月(1.0%増)と前年同月比でプラスを維持したが、7月は0.2%減とマイナスに転じた。一方の京急の定期外は4月(2.6%増)、5月(2.6%増)、6月(2.2%増)と推移し、7月も1.9%増だった。羽田空港にアクセスする京急は訪日外国人増の恩恵をもろに受けるわけだ。
観光地やホテル群の有無
東急沿線の方は、住宅地としては抜群の人気を誇るが、目立った観光地が少なく(例えば小田急電鉄には箱根がある)、訪日外国人の需要を取り込みにくいのが弱点なのだ。鉄道収入とは別のくくりだが、東急には立地が良い大規模なホテル群がないという面からも、訪日外国人の需要を取り込めていない。
稼ぎ頭の不動産事業にも不安がある。都心でオフィスビルの大量供給がある「2018年問題」だ。実際、株式市場を見渡すと、大手不動産会社は軒並み最高益を更新中だが、その不動産株は上値が重くなってきている。2回目の安倍政権誕生から足元まで続く不動産ブームが需給面で岐路に立っていると株式市場に受け止められており、不動産事業に頼る東急株も上昇しにくくなっているというわけだ。
不動産、観光地ともに東急にとってそう簡単には克服できそうもない課題だけに、株価反転に向けては人気住宅地の強みをどう生かすかも問われそうだ。