パートやアルバイトというような非正規雇用が増え続けている現代。いわゆるフリーターと呼ばれているアルバイトやパート以外に、女性に多いのが派遣社員という働き方。「派遣社員」とは、派遣会社が雇用主となり、派遣先に就業に行く契約となり派遣先となる職種や業種もバラバラです。そのため、思ってもいないトラブルも起きがち。

自ら望んで正社員ではなく、非正規雇用を選んでいる場合もありますが、だいたいは正社員の職に就けなかったため仕方なくというケース。しかし、派遣社員のままずるずると30代、40代を迎えている女性も少なくありません。

出られるようで、出られない派遣スパイラル。派遣から正社員へとステップアップできずに、ずるずると職場を渡り歩いている「Tightrope walking(綱渡り)」ならぬ「Tightrope working」と言える派遣女子たち。「どうして正社員になれないのか」「派遣社員を選んでいるのか」を、彼女たちの証言から検証していこうと思います。

☆☆☆

今回は、都内で派遣社員として働いている服部明子さん(仮名・33歳)にお話を伺いました。明子さんはセミロングの黒髪を後ろにひとつにまとめ、太めのきりっとした眉毛とナチュラルメイク、薄茶色のフレームの眼鏡をかけていました。紺色のフレアスカートのワンピースに、黒のシンプルなスリッポンを合わせ、茶色の革製の大き目なトートバッグを持っていました。

「今はフルタイムの派遣社員として働いています」

明子さんは、もうすぐ3歳になる男児のママ。今年の春までは、正社員として働いていました。

「前の職場は家から1時間以上かかる場所で、時短勤務をしていたのですが色々とタイミングが重なって、退職しました」

彼女は福島県郡山市出身。10歳年が離れている姉と、70代になる父、専業主婦の母は地元で暮らしています。

「私は、父が42歳の時に生まれた子だったんです。父はガスの点検スタッフとして働いていて、母は足が少し不自由だったので専業主婦として家にいましたね。子供の頃は、ほかの子と比べると親が老けていたので、運動会とかに親が来るのが嫌でした」

10歳年の離れた姉は、母親代わりのように面倒を見てくれました。

「姉は典型的な長女で、“私がやらなければ”という感じで、足が少し不自由だった母の面倒を率先してみていたんですよ。今も、結婚をして実家の近所で暮らしています」

地元には、姉と両親が暮らしています。

「姉とも10歳も離れていたので、喧嘩もした記憶とかなくて。私が小学生の時には、もう向こうは成人していたので、結構、早々と家を出ちゃったんですよ。姉は、介護士の資格が取れる専門を出ていて、今は訪問介護の仕事をしています」

昔から、自分は上京したいという気持ちが強かったと言います。

「私だけ、ちょっと変わっていたというか。中学くらいから東京に行きたかったんですよ。中学の時の修学旅行で行けるチャンスがあったので、行きたい店とかリストアップして。結局、グループ行動で行けなかったんですけど。渋谷の交差点に行っただけで、“お祭りみたい”って、人の多さにびっくりしましたね」

古い価値観の親と、時々衝突していたと言います。

「多分、親が他の親よりちょっと年上だったから、それに反発して家を出たかったというのがあったのかもしれないです。高校生の頃、周りの子は携帯を持ち始めたのですが、うちは“そんなもの必要ない”の一言で反対されたの覚えています」

新卒で就職した企業から、念願のIT企業へ転職……

勉強は苦手ではなかったので、高校は県内でも有数な進学校に入学します。

「姉も通っていた小中だったので、先生も姉が教わったのと同じ先生がいたり。顔見知りが多くて、町中が狭い感じだったんですよ。姉が進学した高校には行きたくなくて、猛勉強しました」

周りは東北地方の大学や、国立大学に進学する人が多かったそう。

「高校は進学校だったんですが、東京の大学への進学率はあまりよくなかったので、自分で調べて受験しました」

地元で結婚した姉が親のそばにいたため、明子さんの上京も姉が後押ししてくれます。

「親も、東京の大学に行きたいっていうのは気づいていたみたいで、半ばあきらめた感じで許してくれました。まあ姉が結婚して、子供が生まれたりもしていたので母の興味がそっちに向いていたのが大きいかもしれないです」

有名私大に合格した彼女。特に将来の希望などはなかったそう。

「私大文系だったので、どこか受かればいいなあって気持ちだったのですが、第一志望に考えていた大学よりも、偏差値的には高い方に受かったんですよ」

大学では、美術史を専攻し、司書の資格も取得しました。

「司書の仕事はないって思いながら、資格だけ取りました。地元には戻りたくなかったので、就活だけは手当たり次第に受けるようにしましたね。とりあえず、小さな企業に就職して、転職でステップアップすればいいかなって考えて就職しました」

比較的、女性の採用数が多い保険や小売りなどを中心に就職活動を行ないます。

「最初に就職したのは、生命保険会社の事務です。大手の子会社に就職したのですが、昔で言う一般職に近い形の契約内容で異動はないのですが、給与も少なかったです」

元々は、クリエイティブ職に興味があった明子さん。転職で願いを叶えます。

「25歳くらいから、結婚で退社する同期とか出てきて“長居してはいけない職場の雰囲気なんだな”って察しました。そのままいてもキャリアにもならなそうなので、働きながら就職活動を進めて、Webコンテンツなどを制作するIT系企業に転職しました」

親には申し訳ないと思いつつも、忙しさを理由に、最近は年に一度しか帰省をしていない。

転職後、結婚出産。順調なライフプランに部署異動で異変が……!? その2に続きます。