インスタ映えがピンチです。かなりの広範囲で嫌われています。

周囲でも、「インスタ映えっていう言葉が嫌い。なにそれバカみたい」「朝の情報番組で、商品やスポットが紹介されるたびに司会者のアナウンサーがいちいち“インスタ映えしそうですね〜”とコメント差し込んでくるのがうざい」と、もやもやを超えてイライラを募らせる声が右から左から飛んできます。

インスタ映えインスタ映えと唱えている人は五月蝿(うるさ)い、うっとうしいと蔑まれ、“映え”と“蝿”をかけて、「あいつらはインスタ蝿だ」なんて、誰がうまいこと言えといった、みたいな状況すら出来上がりつつあります。

大変困った。

「インスタ映え」とされるものは、かわいくておしゃれでロマンチックです。年齢問わず、一定数の女性が好む大好物要素を備えています。困った、と書く私も、当然その“一定数女性”の一員です。

「インスタ映え」が流行ったおかげで、「インスタ映え」がなければきっと一生知らなかった、かわいくておしゃれでロマンチックなものをたくさん手に入れました。

ラウンドタオル、パイナップルの大型フロート、コブヒトデが付いたニットクラッチ、あーメイソンジャーも買ったなー、10個くらい。

人気コーヒーショップの超絶ハイカロリードリンクや、沖縄の絶景スポットを知ったのも、インスタ映え族のみなさんが身銭を切って東奔西走し、上手に写真を撮っては公開してくれたからです。

「インスタ映え」が流行ったおかげで、欲しくなったり行きたくなったりする場所が増えもしました。
過疎や天災や風評被害に悩まされている地域も、インスタ映えする場所を見つけたり作ったりして観光客を戻しているところもあります。

「インスタ映え」は新しい消費のスタイルです。

寺山修二が『書を捨てよ、町に出よう』と提唱してから50年あまり。女性たちは書を捨てて街に繰り出し、体験を表現しています。これ、憂うべきことでしょうか。書(雑誌)が読まれなくなったのは非常に残念ですが。

ひと昔前、女性ファッション誌で多用していた限定&ラスイチも、女性の消費行動に大きく貢献しました。でも、それは“モノ”が中心。「インスタ映え」はより広く、コトやエリアにも活用できます。これって、すごいことじゃありませんか。

マスメディアが「インスタ映え」と言い出したら、もうすぐ終焉の兆し

思い出してみれば、限定&ラスイチブームのときにも、世間からは「女たちはラスイチラスイチってうるせーよ」とけっこう叩かれました。

当時、女子大生やOLが限定商品を求めてハワイに行くことを「買い付けかよ」と吐き捨てるように言っていた人もいましたわ。今の「インスタに載せる写真を撮るために旅行をする」というのと、“そこはかとなく目的がおかしいからもやもやする”という点では、同じなのかもしれません。

しかし、それもマスメディアに取り上げられ、賛否出るようになったら終わりの始まりです。限定・ラスイチ消費も、テレビで女性レポーターが「これ、限定なんですよ〜」「ラスイチなんですって〜!」などと言い始めたころから、瞬く間に収束していきました。「インスタ映え」、来年までもつかな。

さて、今、もっとも熱く語られている「インスタ映えうざい」案件のひとつが、ナイトプールです。

世間的に多くの賛同が得られるのは「インスタに載せる写真を撮る目的でわざわざプールに行くってバカ」という意見でしょう。

「いちばん腹が立つのは、ナイトプールで自撮りしまくってるブス」と吐き捨てた男性もいます。
インスタ族は、モテ消費の対極にある種族です。よって、ナンパ目的の男性に興味を示しません。だから、相手にされない男性が、悔しさのあまり彼女たちをブ〜ス!と言いたくなる気持ちもわかります。

一方、女性からも、「レストランで自撮りをしまくっている女子チームやカップルにイラつく。即刻、止めてほしい」とのアンチ意見は多い。インスタ族に「撮りたいんだからいいじゃない」というふてぶてしさを感じると、同性はとても攻撃的になるのです。

そんなに写真が撮りたいかって言われたら、撮りたいんですよ、インスタ映え族は。

インスタ映え族は、いかに自分のインスタアカウントを美しく構成できるかが何よりも重要で、現実世界に生きていないのです。

彼女たちにとって、自分のアカウントページは夢の世界です。
もうちょっと目が大きければ、もうちょっと鼻がちいちゃければなどという、自身のコンプレックスも、アプリ加工という魔法で解決。あっという間に肌はツルツル、手足が長く、スタイルのいいアバターが完成するのです。鏡を見るようにインスタを覗けば、いつでもそこに理想の自分がいる。サイコー!

マイアカウントのページにはお気に入りのものたちに囲まれた抜群にかわいい自分しかいない。汚くてゴチャゴチャして、見たくないものばっかりの現実とは違う、理想の王国が作れるのです。もちろん女王は自分です。サイコー!

次あたりの『世にも奇妙な物語』で、インスタ映えに夢中になるあまり、気が付いたらスマホの中に閉じ込められていたという女の子の話とか、出てきそう。
ラストは、そして彼女は幸せに暮らしましたとさ、です。

そのくらい毒のある物語が生まれる頃には、次の消費スタイルが完成されているかもしれません。それまでの間、インスタ映え族の繁栄(と衰退)を見守ろうではありませんか。

「ナイトプールで泳がない女」「レストランで自撮りまくる女子とカップル」以上に世間から迫害されるインスタ映え族とは?その2では、あずき総研がリサーチした独身アラサー&アラフォーの「イラつくインスタ映え族」を紹介します。

インスタ映えに躍起になるお店とそれに応えるインスタ映え族。その関係は蜜月なのである。