東京・千代田区の朝鮮総連中央本部

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在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の機関紙・朝鮮新報(朝鮮語版)は1月16日、在日本朝鮮人科学技術協会(科協)の黄竽洪(ファン・チョルホン)会長の訃報を伝えた。

科協とは、外事警察が「北朝鮮の核・ミサイル開発を下支えした」(警察関係者)として、朝鮮総連傘下団体の中で最重視している組織だ。その真偽のほどは別としても、いずれにせよ日本政府は昨年2月に決定した独自制裁で、科協所属の科学者5名に対し再入国禁止措置を下している。

そんな組織のトップであった黄氏は、北朝鮮と朝鮮総連にとってみれば祖国の科学技術発展に大きく貢献した人物であったと言えるだろう。

これを裏付けるように、訃報には「金日成大元帥と金正日元帥は故人の功績を高く評価し、尊名時計表彰、金正日賞、国家勲章第1級(2回)、労力勲章、共和国創建記念勲章(2回)、国旗勲章第2級(2回)、国旗勲章第3級をはじめとする国家殊勲の栄誉を与えられた」と紹介されている。「英雄」と表現して差し支えない経歴と言えるだろう。

だが、これほどの功労者である黄氏の葬儀に、許宗萬(ホ・ジョンマン)議長をはじめとする朝鮮総連幹部の姿はなかったという。朝鮮総連の関係者が語る。

「黄会長が亡くなったと聞いた朝鮮総連は、韓徳銖(ハン・ドクス)元議長や徐萬述(ソ・マンスル)前議長と同じく『総連葬』として葬儀を行うつもりでしたが、遺族から拒否されたそうです。朝鮮総連は平壌にある愛国烈士陵への埋葬も持ちかけましたが、遺族からそれも拒否され、葬儀への参加も断られたと聞きます。

科協は総連の中でも別格の組織。そのトップの葬儀から締め出されたことに、許宗萬議長は大きなショックを受けたようです」

訃報には、「告別式は家族葬儀で1月4日に厳粛に挙行された」とあるのみで、詳細は伝えられていない。葬儀から朝鮮総連関係者をシャットアウトされた理由は、「総連内部でも説明されてない」(前出の関係者)という。

説明されてないのは、説明できない理由があるからだろう。普通に考えれば、科協という「別格の組織」のトップの死に際して、総連が拒絶される理由は見当たらない。何かあったとすれば、殊勲者の最期の選択が、「総連との決別」であったということなのだろうか。

許議長は1月27日に行った朝鮮総連幹部の会議で、黄氏の葬儀を巡る一連の顛末に言及し、「『遺族により政治的に殺された』と言って憤激した」(別の朝鮮総連関係者)と言う。

しかし思えば、朝鮮総連にせよ科協にせよ、かつては北朝鮮の核兵器開発について「事実でない」と否定し、核兵器の存在そのものを「悪」であると主張してきた経緯もある。朝鮮総連は臆面もなくその主張を翻し、同胞たる北朝鮮国民の生活を犠牲にした核武装を礼賛して恥じないが、もしかしたら故人は、何かしら忸怩たるものを感じていたのかも知れない。