鉄道ニュース週報 第50回 JR只見線災害不通区間、上下分離方式で鉄道復旧へ
2011年の豪雨水害以降、不通となっていたJR只見線会津川口〜只見間が復旧する見通しだ。福島県と沿線自治体が12月21日までに鉄道復旧の方針でまとまった。22日に福島民友新聞、24日に河北新報が報じた。本稿執筆時点の26日、只見線復興推進会議検討会で正式に決定したと産経新聞が速報している。今後、JR東日本に復旧後の上下分離化を提案。JR東日本も受諾する方向で検討する見通しとなった。
只見線の不通区間については、当連載第25回(2016年6月21日掲載)でもお伝えした通り。抜粋すると、2011年に発生した「平成23年7月新潟・福島豪雨」と、それにともなうダムからの緊急放水で只見川沿岸が洪水となった。当時、只見線の会津坂下〜小出間113.6kmが不通となった。その後、被害の小さな区間は復旧し、2012年10月1日までに不通区間は会津川口〜只見間27.6kmとなった。しかしこの区間の被害が最も大きく、3つの橋りょうで新規架設が必要、1つの橋りょうで改良などが必要となっている。
金山町・只見町をはじめとする沿線自治体と福島県は、JR東日本に対して復旧を要望していた。一方、JR東日本は只見線の赤字などを理由にバス転換を提案した。鉄道復旧の場合は復旧費用の応分の負担と、復旧後の路線維持の支援を求めた。当初、復旧費用は約85億円。復旧後も毎年2億7,500万円の赤字となる試算だ。
沿線自治体は「観光面で地域の活性化につながる」「道路だけでは防災面で不安」「冬期の道路交通の危険」などを理由に鉄道復旧を求め、復旧費用を捻出できるかなど検討を重ねた。また、福島県、沿線自治体、関連団体などで「只見線応援団」を結成し、情報発信や寄付金の募集といった取組みを始めた。
JR東日本は今年9月、復旧費用が約108億円になるという再試算結果をまとめた。約23億円の増加理由は、東日本大震災の復興や東京オリンピック・パラリンピック関連需要で資材費、人件費が高騰していること、また、2011年の試算時よりも電気設備などの劣化が進み、工事箇所が増えたことなどであった。
現行法の枠組みでは、国は黒字事業者の災害復旧に費用の支援はできない。それでも沿線自治体は国に対し、法改正も含めたJR東日本への支援を要請していた。復旧後は上下分離方式による運行支援を検討したけれど、JR東日本からの復旧見積もり増額によって、自治体でも鉄道存続とバス転換の選択に悩んだ。鉄道は復旧したい。しかし自治体にとっては、毎年、巨額の負担が発生する。その費用は行政サービスの費用を削る必要もある。
事態の転換は11月27日の只見線復興推進会議検討会だ。同会は福島県と沿線市町村で構成される。ここでJR東日本は、新たな復旧費資産額として約81億円を示した。これは第8只見川橋りょうの復旧工法を見直したため。当初は安全性を高めるため、橋りょうをかさ上げし、レール面と水位を大きく離す見積もりだった。2011年7月と同様の水害を想定していた。しかし、ダムの水位調整を積極的に行う前提でかさ上げを取りやめる。
復旧費の減額を受けて、沿線自治体では11月30日と12月1日に沿線住民との懇談会を開催。改めて再検討した結果、上下分離方式による鉄道存続方針でまとまった。JR東日本は代行バスの運行継続を主張しつつ、地元の結論が上下分離案で固まった場合は「受け入れることになるだろう」と語っていた。
復旧工事期間は当初は4年間だった。しかし第8只見川橋りょうのかさ上げがなくなったため、3年間に短縮される。2017年の早い段階で着手すれば、2020年のオリンピックイヤーに間に合いそうだ。いや、観光のための復旧だから、世界から日本に注目が集まる2020年夏までに復旧させなくてはいけない。今後、沿線自治体とJR東日本との正式合意と、早期の復旧工事着手が望まれる。
2020年の夏までに復旧できれば、只見線で最も美しい紅葉シーズンに乗れる。沿線自治体だけではなく、鉄道ファン、旅行好きとしても大歓迎だろう。復旧が決まり、列車が走り出せば、「乗り鉄」や撮影で鉄道ファンが只見線に貢献できる。復旧した只見線で、ダムに堆積する土砂を運び出すという構想もあるという。実現すれば貨物列車の姿も見られるかもしれない。只見線の未来に期待したい。
(杉山淳一)