【蹴球日本を考える】本田、香川の先発落ちとボール支配の劣勢。それでも勝った日本代表の文化が変わりつつある!?
サウジアラビア戦の勝利には、ふたつの意味がある。
ひとつは本田、香川、岡崎というベテラン勢を先発から外して、勝利を得たということ。実績か、それとも調子か――。ハリルホジッチ監督は後者を選んで、しっかりと勝点3を手にした。
岡崎はともかく、本田と香川を外すという決断は、ザッケローニもアギーレもできなかったことだ。
従来の日本代表は、このふたりに左サイドの長友が加わった左サイドでの崩しが攻撃の大きな軸となっていた。
中盤から縦パスを受けた本田が、敵の隙間を覗き込むようにして香川にストンとパスを入れる。その瞬間、大外から長友が駆け上がり、一気にフィニッシュに持ち込む。
この3人の連係がチャンスの源となっていた。
だが、いまは見る影もない。
長友も含めて所属クラブでは出番が少なく、日本代表でも長く精彩を欠いている。岡崎、本田、香川が外れるのは国内組で臨んだ東アジア選手権を除けば、昨年3月のチュニジア戦以来となるが、この決断は遅かったくらいだ。
もちろん、実績のある主力を外すのは勇気が要る。とりわけ多くのコマーシャルに出ている本田や香川を外すのは、なおさらのことだ。
ふたりはキリンチャレンジカップのような練習試合でも、当然のようにスタメンに名を連ねてきた。それは代表戦がスポンサーと視聴率を稼ぐキラーコンテンツになっている、日本独特の事情があるからだ。スター選手は外しにくく、若手は使いづらい。
一方、ヨーロッパや南米の国々では、代表チームの練習試合がベストメンバー縛りになることは少ない。それはクラブが主力選手を出したがらないことも含めて、代表チームの注目度が低いからだ。縛りが少ない分、様々な選手を起用できる。
ベテランを外した起用について、ハリルホジッチ監督は次のように述べた。
「チームの80パーセントの選手がプレーしていない時期があった。もっと頻繁にプレーしてほしい。本田、岡崎、(香川)真司、全員自分たちのクラブで厳しい状況にあるのは知っている。私はそうした選手にスタメンを取りなさい、スタメンで出られるクラブに行きなさいと言い続けている」
つまり、指揮官はこういうことを言っている。
海外組のブランドに安住するな――。
選手はどこのユニホームを着ていても、ピッチに立たなければ意味がない。ドイツやイタリアで燻っていることを考えれば、たとえJリーグであっても試合に出た方が得るものは多いのだ。
これを機に出番のない海外組が動き出せば、日本代表は活気づくことになるだろう。
サウジ戦の勝利のもうひとつの意味。それはボールを支配されながらも勝ったということだ(ボール保持率は日本44.7%、サウジ55.3%)。
世代交代の過渡期にある日本代表は、対アジアでも安定してボールを支配して攻め続けるほど強くない。
もっとも、いまの日本代表は結果を出すことで精一杯、そのため支配率と手数で敵を圧倒する「自分たちのサッカー」に縛られていない。
このサウジ戦も後半はパスを回されたが、しっかりと守りを固め、縦に速い攻めで敵陣を脅かした。しっかりとボールを収める大迫と左サイドから切れ込む原口、このふたりが反転速攻を生み出している。
本田、香川が万全な時のような、試合をコントロールする力はない。だがハリルホジッチが率いる若い日本代表は、なりふり構わず勝とうとするしぶとさを身につけつつある。
チームの文化が、いま変わろうとしているのかもしれない。
取材・文:熊崎 敬(スポーツライター)
ひとつは本田、香川、岡崎というベテラン勢を先発から外して、勝利を得たということ。実績か、それとも調子か――。ハリルホジッチ監督は後者を選んで、しっかりと勝点3を手にした。
岡崎はともかく、本田と香川を外すという決断は、ザッケローニもアギーレもできなかったことだ。
従来の日本代表は、このふたりに左サイドの長友が加わった左サイドでの崩しが攻撃の大きな軸となっていた。
中盤から縦パスを受けた本田が、敵の隙間を覗き込むようにして香川にストンとパスを入れる。その瞬間、大外から長友が駆け上がり、一気にフィニッシュに持ち込む。
この3人の連係がチャンスの源となっていた。
だが、いまは見る影もない。
長友も含めて所属クラブでは出番が少なく、日本代表でも長く精彩を欠いている。岡崎、本田、香川が外れるのは国内組で臨んだ東アジア選手権を除けば、昨年3月のチュニジア戦以来となるが、この決断は遅かったくらいだ。
もちろん、実績のある主力を外すのは勇気が要る。とりわけ多くのコマーシャルに出ている本田や香川を外すのは、なおさらのことだ。
ふたりはキリンチャレンジカップのような練習試合でも、当然のようにスタメンに名を連ねてきた。それは代表戦がスポンサーと視聴率を稼ぐキラーコンテンツになっている、日本独特の事情があるからだ。スター選手は外しにくく、若手は使いづらい。
一方、ヨーロッパや南米の国々では、代表チームの練習試合がベストメンバー縛りになることは少ない。それはクラブが主力選手を出したがらないことも含めて、代表チームの注目度が低いからだ。縛りが少ない分、様々な選手を起用できる。
ベテランを外した起用について、ハリルホジッチ監督は次のように述べた。
「チームの80パーセントの選手がプレーしていない時期があった。もっと頻繁にプレーしてほしい。本田、岡崎、(香川)真司、全員自分たちのクラブで厳しい状況にあるのは知っている。私はそうした選手にスタメンを取りなさい、スタメンで出られるクラブに行きなさいと言い続けている」
つまり、指揮官はこういうことを言っている。
海外組のブランドに安住するな――。
選手はどこのユニホームを着ていても、ピッチに立たなければ意味がない。ドイツやイタリアで燻っていることを考えれば、たとえJリーグであっても試合に出た方が得るものは多いのだ。
これを機に出番のない海外組が動き出せば、日本代表は活気づくことになるだろう。
サウジ戦の勝利のもうひとつの意味。それはボールを支配されながらも勝ったということだ(ボール保持率は日本44.7%、サウジ55.3%)。
世代交代の過渡期にある日本代表は、対アジアでも安定してボールを支配して攻め続けるほど強くない。
もっとも、いまの日本代表は結果を出すことで精一杯、そのため支配率と手数で敵を圧倒する「自分たちのサッカー」に縛られていない。
このサウジ戦も後半はパスを回されたが、しっかりと守りを固め、縦に速い攻めで敵陣を脅かした。しっかりとボールを収める大迫と左サイドから切れ込む原口、このふたりが反転速攻を生み出している。
本田、香川が万全な時のような、試合をコントロールする力はない。だがハリルホジッチが率いる若い日本代表は、なりふり構わず勝とうとするしぶとさを身につけつつある。
チームの文化が、いま変わろうとしているのかもしれない。
取材・文:熊崎 敬(スポーツライター)