上半期のマイル王を決めるGI安田記念(東京・芝1600m)が6月5日に行なわれる。今年は海外GIを制した日本馬2頭をはじめ、実績のある有力馬が集結。「史上まれに見るハイレベルな争い」と言われた日本ダービーの熱気そのままに、熾烈な争いが見られそうだ。

 なかでも注目は、海外のGI覇者2頭。モーリス(牡5歳)とリアルスティール(牡4歳)である。

 モーリスは昨年の安田記念でGI初制覇を飾ると、そこから怒涛のマイルGI4連勝。その中に、GI香港マイル(2015年12月13日/香港・芝1600m)、前走のGIチャンピオンズマイル(5月1日/香港・芝1600m)といった海外GIが含まれている。一方、リアルスティールは、前走でGIドバイターフ(3月26日/UAE・芝1800m)を快勝。悲願のGIタイトルを海外でつかんだ。

 今回、そんな海外GIを制覇したばかりの2頭の対決が実現。"世界トップレベルの争い"ということもあって、注目度が一段と増している。

 そのうえ、日本で戦ってきた猛者たちも参戦。となると、穴馬が食い込むのは厳しそうな気配だ。「ハイレベル」と謳われた日本ダービーが1〜3番人気で決着したばかりだけに、余計にそう感じてしまう。

 だが、近年の安田記念を振り返ってみると、決してそうとばかりは言えない。過去3年連続で1番人気が優勝しているものの、2、3着には10番人気以下の"大穴"が必ず飛び込んできている。

 しかも、2013年はGI香港スプリント(香港・芝1200m)の覇者ロードカナロアが、2014年にはGIドバイデューティフリー(UAE・芝1800m)を圧勝したジャスタウェイが出走。今年と同様、ここ数年は海外GIレベルの馬が参戦して豪華な顔ぶれとなっていたが、そんな馬たちと上位争いを繰り広げた馬の中に、決まって人気薄の"伏兵"がいたのだ。

 そこで、ここ3年で3着以内に食い込んだ穴馬を参考にして、今年"激走"しそうな伏兵馬を探してみたい。

 まず、過去3年の安田記念を振り返ってみたい。結果は以下のとおりである。

◆2013年
1着=ロードカナロア(牡5歳/1番人気)
2着=ショウナンマイティ(牡5歳/3番人気)
3着=ダノンシャーク(牡5歳/12番人気)

◆2014年
1着=ジャスタウェイ(牡5歳/1番人気)
2着=グランプリボス(牡6歳/16番人気)
3着=ショウナンマイティ(牡6歳/10番人気)

◆2015年
1着=モーリス(牡4歳/1番人気)
2着=ヴァンセンヌ(牡6歳/3番人気)
3着=クラレント(牡6歳/12番人気)

 3着以内に入線した伏兵馬を見てみると、まず多いのが「実績十分ながら、年齢的に陰りが見えてきた馬」である。2014年のグランプリボス、ショウナンマイティ、2015年のクラレントが、それに該当する。

 2014年2着のグランプリボスは、マイルGIを2勝(朝日杯フューチュリティS、NHKマイルC)し、2着も2度あった馬。だが、2014年の安田記念のときは、前年の安田記念で10着と人気(2番人気)を裏切ったあと、パッとしない成績が続いていた。しかも、半年以上の休み明け。一気に人気を落とした。

 3着ショウナンマイティも、前年の安田記念では人気どおり2着と好走していながら、その後の3走は、6着、10着、5着と不振。6歳という年齢も相まって、10番人気の低評価にとどまった。

 2015年3着のクラレント(※今年も出走)は、重賞6勝の実績馬だが、GIでは力が足りず、安田記念の前は凡走を繰り返していた。ふた桁着順で大敗することも多く、年齢による陰りも囁かれていた。

 さて今年、これらに似た「実績はありながら、陰りが見え始める高齢馬(6歳以上)」はいるのか。候補になり得る馬が、1頭いる。

 ロゴタイプ(牡6歳)である。

 ロゴタイプは、GI2勝馬(朝日杯FS、皐月賞)。実績は文句なし。しかし、2013年の皐月賞を勝って以来、実に3年以上勝ち星から遠ざかっている。

 もちろん、前走のGIIIダービー卿チャレンジトロフィー(4月3日/中山・芝1600m)で2着と好走するなど、その間に何度となく勝つチャンスはあったが、2走前のGII中山記念(2月28日/中山・芝1800m)ではGIレベルのメンバーの中で7着と惨敗。3走前のGIマイルCS(2015年11月22日/京都・芝1600m)でも9着と、一線級相手には厳しい戦いが続いている。

 加えて、6歳という年齢に差し掛かり、GIIIレベルならまだしも、GIでの好走はさすがに難しい状況と見られている。今回の強力なメンバーとなれば、人気落ちは必至である。

 とはいえ、ここ3年も有力馬が集う中で、こうした実績馬が息を吹き返してきた。ロゴタイプも、マイル戦のGI馬であり、クラシックウイナーである。その底力とベテランの経験値を駆使して、大観衆を驚かせてもおかしくない。

 ところで、近3年のうち、やや異なったタイプの"穴馬"も1頭いる。2013年3着のダノンシャークだ。

 同馬は、安田記念から2走前のGIII京都金杯(京都・芝1600m)を快勝して初の重賞制覇を飾ると、前走のGIIマイラーズC(京都・芝1600m)でも、勝ち馬からコンマ1秒差の3着と好走。まさに充実期に突入しようとしていた。

 にもかかわらず、人気にならなかったのは、単純に「GIではかなわない」と見られたこと。そのうえ、今年と同じく海外GIを勝ったロードカナロアをはじめ、強豪メンバーがそろっていたからだろう。

 今年、このパターンの馬を探すと、ロサギガンティア(牡5歳)が似たタイプではあるが、同馬はある程度の人気が予想され、過去の大穴とは異なる。そこで挙げてみたいのが、ディサイファ(牡7歳)だ。

 ディサイファは7歳のベテランだが、陰りが見えるどころか、今が充実期。2走前にはGIIのAJCC(1月24日/中山・芝2200m)を快勝し、昨年も重賞2勝を挙げている。陣営からは「やっと馬が完成された」といったコメントも聞かれ、まだまだ飛躍が見込める。

 前走のGII日経賞(3月26日/中山・芝2500m)は5着と敗れたものの、意図せずにハナに立ってしまい、慣れないレースを強いられた。それでも、勝ったゴールドアクターとはコンマ5秒差。有馬記念馬を相手によく走ったと言える。

 そんなディサイファだが、これまで2000m前後の中距離路線で良績を残しており、マイル戦は決して得意舞台とは言えない。マイル戦を得意とする猛者がそろう中で、さすがに人気にはならないだろう。まさに「ここでは厳しい」という見方をされたダノンシャークのようではないか。

 かつて、ディサイファはGIIIエプソムカップ(東京・芝1800m)で勝利。同じ東京の舞台で200mの距離短縮なら、対応できる余地を残していると考えられる。まして、現在の好調さでは他の馬にもヒケをとらない。波乱を起こす可能性は大いにある。

 海外帰りの英雄、モーリスvsリアルスティールの激突に熱い視線が注がれる安田記念。はたして、その間隙を突く伏兵馬は現れるのか。日本ダービーに続く"ハイレベル"な一戦から目が離せない。

河合力●文 text by Kawai Chikara