機首に強力な30mm機関砲を装備するA-10攻撃機(写真出典:アメリカ空軍)。

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これまで何度も「不要」とされながら、見直されているアメリカ軍の攻撃機があります。A-10「サンダーボルトII」。今回もイスラム国で、見直されたようです。

不死身のイボイノシシ

 アメリカ空軍が保有するA-10「サンダーボルトII」攻撃機は、戦場上空を低速かつ低高度で滞空。要請があれば即座に敵勢へ爆弾などを叩き込む、「近接航空支援」専門の軍用機です。A-10は多少の反撃にも耐え得る装甲を有し、戦車さえ葬り去る30mm機関砲を筆頭に多彩かつ大きな兵装搭載量を誇ります。

 この「ウォートホッグ(イボイノシシ)」とも呼ばれるいまどき珍しい対地攻撃専用機であるA-10を、アメリカ空軍は退役させようとしています。そしてA-10を削減した分の予算をF-16「ファイティングファルコン」やF-35「ライトニングII」のような、空中戦も対地攻撃もできるマルチロールファイター(多用途戦闘機)の維持に充てようとしているのです。

 ところが2016年1月、A-10を2021年までに全機退役させる計画が見直され、無期限にその退役を延期する見込みであることが報道されました。ISIS(イスラム国)に対し、先述のような特徴を持つA-10が極めて有効だと再認識されたことがその理由といいます。

 A-10はこれ以前にも、たびたび「不要な存在」とされながらその都度、よみがえりました。まさに「不死身のウォートホッグ」です。

幾度もよみがえるノロマなA-10

 A-10は冷戦時代、ソ連軍に対抗する「タンクキラー(戦車殺し)」として生まれ、1972(昭和47)年に初飛行しました。

 しかし実戦配備と同時に、巡航速度560km/hのA-10は「遅すぎて敵の対空火器に対して無力ではないのか?」という弱点が指摘されはじめます。そして最大38mm厚のチタニウム装甲を有し、小口径の銃弾には極めて強い構造を持つA-10ですが、破壊力に勝る地対空ミサイルに対しては十分とはいえないものでした。

「現代戦で生き残ることができないノロマなA-10に価値はあるのか?」

 その懸念は、1991(平成3)年の湾岸戦争で現実のものとなりました。イラク最精鋭の大統領親衛隊に対し攻撃を行った2機のA-10が、わずか数分のうちに2機とも撃墜されてしまったのです。以降、A-10が大統領親衛隊に対する攻撃へ投入されることはなくなりました。

 一方でA-10は、対空火器をそれほど有していない部隊に対しては、その破壊力を存分に発揮します。湾岸戦争では戦車・装甲車両を1000両、そのほかの車両を2000両、火砲も1200門破壊するという大戦果をあげ、その能力を証明してみせました。A-10は防空能力の低い敵を相手にするほど、その強さを発揮したのです(ただしこの公式戦果は、過大評価であったことが明らかになっています)。

 これと時を同じくしてソ連が崩壊。大国同士が戦争に突入する危険性が、ほぼなくなります。

 そして2001年以降、A-10は対テロ戦争に投入されます。テロ組織は十分な地対空ミサイルを持たない場合が多く、まさにA-10にとっては格好の相手でした。ISISなどは、まさにその代表格です。

不器用さが逆に愛され、信頼されるA-10

 そしてA-10は現在、全機に対し性能向上が施され、リンク16デジタルデータリンクへの対応、夜間攻撃を可能とするスナイパー照準ポッドの搭載、GPS誘導爆弾の運用能力、さらにエンジンの換装や寿命の延長が行われ、現代的で極めて強力な攻撃機「A-10C」へと生まれ変わっています。

 ですがA-10は空中戦もできなければ、敵国の中枢部を爆撃するような作戦もできません。ただ近接航空支援を実施するためだけに存在する攻撃機です。

 しかしこのA-10の「不器用さ」が、陸軍から大きな信頼を勝ち得る元になっています。陸軍にとってみれば“空軍の戦闘機”とは、いつ自分たちと関係の無い作戦へと飛び去ってしまうかもわからない「いけ好かないヤツ」ですが、A-10は近接航空支援しかできません。それゆえA-10は、最後まで自分たちの頭上を離れず支援してくれる「頼りになるヤツ」だと知っているからです。

 陸軍が「ウォートホッグ」を愛してやまないからこそ、空軍はこれを手放せないでいるのです。