『妻と私・幼年時代』(江藤 淳) 一乳児と検閲 一方、母はといえば、その「お話」の意味するところを、いうまでもなく十二分に理解していたに違いない。それはもとより禁止もなければ、検閲も存在しない(・・・・・・・・)世界である。無論私は、この頃のことを何一つ覚えてはいない。しかし、他の乳児たち同様に、自分にもかつてはそういう世界が確実に在ったのは、まぎれもない事実なのである。(一三五頁。傍点は引