ももいろクローバーZ主演映画「幕が上がる」。ももクロの映画であり、青春映画であり、それ以上に「ももクロファンの映画」である

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2月28日から公開中の映画「幕が上がる」。人気アイドルグループ・ももいろクローバーZの主演映画だ。監督は「踊る大捜査線」シリーズの本広克行、脚本は「桐島、部活やめるってよ」の喜安浩平だ。原作は平田オリザの同名小説。

題材は「高校演劇」。
さおり(百田夏菜子)が所属している演劇部は弱小。高2の秋は、地区予選を突破することなく終わった。大好きだった先輩も卒業して、とうとうさおりたちの代が最高学年になってしまった。同学年のユッコ(玉井詩織)とがるる(高城れに)に推薦されて、さおりは演劇部の部長になる。ユッコたちや一個下の学年の明美ちゃん(佐々木彩夏)の前で、さおりはこう宣言する。
「負けたくないの」
……でも、新チームで迎えた新入生歓迎会は大失敗。さおりはこの先どうしていいのかわからなくなる。そんな中、さおりたちは新任の美術教師・吉岡先生(黒木華)と出会う。実は吉岡先生はかつて「学生演劇の女王」と呼ばれていた人物。さおりたちは吉岡先生に頼み込み、演劇部の練習を見てもらう約束を取り付けた。
吉岡先生のアドバイスのもと、ぐんぐんと実力を伸ばしていく演劇部。勧誘したけれど断られてしまった同じ地区の演劇強豪校からの転校生・中西さん(有安杏果)も、さおりたちの公演を見に来てくれて、興味を持ち始めているよう……。
吉岡先生はさおりたちにこう語る。
「君たちと一緒に全国に行きたい」──。

高校3年生の夏を「演劇」に捧げる女子高生たち。これは青春を「アイドル」に捧げている、と読み替えることもできる。「全国を目指す」も、「紅白を目指す」と言っていた少し前のももクロを重ねたくもなるだろう。シングルベッドで2人で眠る夏菜子と詩織など、ファンの間で有名な楽曲をそのまま劇中に入れ込んだシーンもある。
「幕が上がる」は間違いなく「ももクロの映画」だ。
でも、それ以上に「ももクロファンの映画」である。

演劇部を引っ張っていく吉岡先生は、かつて「女王」とまで呼ばれながら、演劇を捨て美術教師の道を選んだ「夢を諦めた大人」だ。しかし演劇部のみんなが演劇に真摯に取り組んでいる、輝いている姿を見ているうちに、一歩足を踏み出すようになる。
そんな吉岡先生の姿に、「吉岡先生は俺だ!」という感想を漏らすファンも多い。
吉岡先生は、まさに「ももクロのファン」なのだ。ももクロの明るさや頑張りを見て、元気をもらい、繰り返しの日常が一段階鮮やかになったファンの姿が、映画の中に描かれている。

「アイドルと演劇」は、「アイドルグループがどのように見られているか/見られたいのか」「アイドルグループの魅力がどこにあるのか」を表す、いわば「アイドル論」のような面を持つ。

たとえばAKB48グループが出演するドラマ「マジすか学園」シリーズは、グループ内のリアルな立ち位置や運営からの期待を反映した、メタ的な作品だ。
ファンは「マジすか学園」を単純なフィクションとしては見ない。48グループはドキュメンタリー映画を毎年発表し「アイドルの裏側」をえげつないまでに見せていくが、「マジすか学園」もある意味ドキュメンタリーのように消費される側面を持っている。

それと似ているのは乃木坂46の「16人のプリンシパル」。恒例になりつつある、グループ総出演の舞台だ。毎回観客投票の公開オーディションを行い、合格者と落選者を出すことで、演劇のストーリーとはまた別の「ドラマ」を作っている。観客はオーディションの演技だけではなく、ふだんのメンバーの様子も選考理由に含めながら投票している節がある。
このメタ感や、メンバー間の(センター争い的な)競争関係を示してくるところは、「マジすか学園」とはまた違う秋元康プロデュースっぽさが前面に出ているといえるだろう。

反面、あまりメンバー個人個人の「物語」を公式が発信しないことで知られるハロー!プロジェクトのアイドルたちは、「美しい素材」として輝く。モーニング娘。とスマイレージ(現在はアンジュルムと改名)が出演した舞台「LILIUMリリウム 少女純潔歌劇」は、演出家の末満健一の世界を表現するために、メンバーたちが「活用」されている。
アーティスト路線に向かい始めた東京女子流の映画「5つ数えれば君の夢」もそれに似ている。いじめや、メンバーの1人がチャラ男に口説かれてオチてしまうという展開もあり、メンバーのファンにとってはむしろ苦しいくらいの映画だろうが、監督・山戸結希が「東京女子流のメンバーの、こんなところが美しい」という思想が表されている。

もはやメタでもなんでもなく、裏と表が一緒になってしまっているのは解散したアイドルグループ・BiSが出演する映画「BiSキャノンボール」。AV監督たちが、素性を隠してアイドルたちにAVに出演させようと付け狙う悪趣味なものだが、運営と何度もぶつかり合い、型破りな活動をしてきたBiSでなければ生まれなかった作品ともいえる。

「幕が上がる」のももクロの演技は意外なほどうまいが、「ももクロらしさ」はそこまで強調されない。
笑顔が魅力的なアイドルである夏菜子は、「自分が何をしたいのかわからない」というモヤモヤを抱えており、前半部分はずっと暗い表情をしている。後半はファンの知っている「夏菜子」に近いキャラクターに「成長」していくので、加速度的に可愛く見えてくるが、前半は「夏菜子ってこういう顔だったっけ?」と思うファンもいるだろう。
でも、ももクロというアイドルがどうして魅力的なのか、ももクロを好きになるということがどういうことなのか、ももクロファンでいることの楽しさがなんであるかを、全力で表現している作品だ。舞台版の上演も予定されている。

(青柳美帆子)