リナ・シェイニウス Exhibition03
六本木AXIS タカ・イシイギャラリー
1月31日まで。

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性器をアートにした、ろくでなし子、タイの売春婦を撮影した大橋仁と、性に関する表現者たちが話題になった14年の暮れ。けしからん! と否定する人、アートだ! と擁護する人、いろいろな意見がネットを飛び交い、大騒ぎに。

同じく12月に、モデルの水原希子が、Instagramで、女性の白いパンツの股間に虹がかかっている写真をアップして、やっぱりネット上で、アートか? エロか? 問答を引き越していた。

水原希子がアップした写真は、リナ・シェイニウスというスウェーデン生まれの女性写真家の作品で、14年の12月から日本で初の個展を開催、それは今月(1月)の31日まで行われているという。
アートかエロかは、実物を見て考えたい。そう思って、東京タワーのそばのギャラリーに出かけてみた。
リナ・シェイニウスは「主に友達や恋人、自身の身体やそれらの親密な瞬間を好んで観察しています」と主催者の解説にあり、股間写真のほかには、どんな写真があるかも気になったので。

会場に入ると、例の、股間の虹の写真が目に入った。でも、まっさきにその前に行くのは我慢。冷静に、ドアから向かってすぐ左に展示された、バスタブか何かに入った女性の下腹部(パンツ履いてる)の写真を見て、そのまま、左回りに会場奥へと順番に見て行く。

液体で濡れた布地、
白い液体を口から流した女性の正面顔、
足の間からのぞいた数本の指、
裸で横たわる女性、
ベッドに裸で座っている女性の後ろ姿、

例の、パンツの写真は、A2版とかB2版くらいの大きさで、ネットで見るよりディテールをはっきり見ることができて、布で覆われた向こうからちらりとのぞく股関節のくぼみに、底知れぬ深さを感じた。プリントは47万円で販売されていた。
小さいサイズの写真はもう少し安価で、最も高額だったのは、70万円の、約100センチ×150センチほどの作品。
ポートレイトを撮る作家だというのに、この大きなサイズの写真だけは人が写っていない。波のようにシワの寄ったシーツに一筋の光が横切っている。
虹の写真もそうだし、裸の背中にも、首から臀部をつなぐ背骨のアーチに、光の線がくっきり重なって、まるで背骨が光っているみたい。
写真は光の芸術というけれど、この作家の写真は、特に、光が強調されている。
裸で横たわった女性の顔は、光で目隠し(犯人の目を黒いバー状のもので隠しているやつみたいな)されているが、これは上方から射した光によって顔のパーツが見えなくなっているのだそうで、意外な匿名性を作り出していた。

パンツの股間と虹、それ1枚だけ見ると、なんじゃこりゃ? と理解に苦しむこともあるかもしれないが、こうやって何点か続けてみると、写真に映った1本の光のように、1本の軸が浮かび上がってくるように思える。

個展のスタッフの方に、水原希子さんのInstagramを見て来たお客さんは多いですか? と訊ねたら、そんなには・・・という回答だった。
ふーん、そんなもんなんですね・・・。実際に足を運んでまで見る人が少ないのはもったいない。

個展を見た帰り、知り合いの写真ギャラリーに立ち寄って、オーナー兼写真家のおじさんに、これらの写真の話をしたら、かなり意識的に光を作って撮っているのではないかと言っていた。偶然、差し込んだ光で撮っているのではないだろうと。
親密な関係性をドキュメンタリーのように撮っているようで、光をコントロールしているとしたら・・・、なかなかテクニックのある人だ。
主催者による解説書には、彼女のサイトからの抜粋で、モデルだった彼女が「モデルをやり始めてから、どの様にプロのファッション・フォトグラファーが働くのか、そして自分がどの様になりたくないのかを学んだ。」とある。
一流のフォトグラファーの仕事から多くを吸収しているのだ。

まあ、事情を知った上で語るべきというのも傲慢で、見て感じたことがすべてではあるから、嫌いという人がいてもしょうがない。
そもそも、好き嫌いは人それぞれだし、エロとかアートとかもどっちでもいい。ただ、どれだけ被写体を想っているかとか、見つめているかとか、その瞬間を撮るために時間や手間をかけているかとか、真面目か真面目じゃないかってことで考えたら、これらの写真にはとても真面目な愛情を感じた。

帰りに寄ったおじさんのギャラリーには、加納典明の「FUCK」が置いてあった。
これは、白人、黒人、日本人が、くんずほぐれつ致している写真集で、加納のサイトには「当時の時代背景ヴェトナム戦争・サイケデリック・ビートニック・五月革命・BIG野外コンサート等々、若者文化が唸りを上げる状況に、私なりに人種差別、性差別に繋がる社会への意見具申と云うか表現であったと思います。」と説明がある。が、男女の交わりの写真が衝撃的過ぎて、書店に置いてもらえないこともあった不遇な作品集で、近年になってようやく復刻されたものだそうだ。
若き日の草間彌生が参加している(撮影されたのは69年)ことにびっくりしたし、どれも凄まじいパワー漲る写真の数々だった。でも、やっぱり苦手な人は苦手だろうな。

好き嫌いも得意不得意もあっていいけれど、最近、他人のやっていることに、過剰にNOを突きつける人が多くないですか。

リナ・シェイニウスの個展は、1月31日まで六本木AXIS ビル内タカ・イシイギャラリーで開催中。

(木俣冬)