フィリピンの武装集団アブサヤフが先週、イスラム教スンニ派テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)との共闘を宣言。アメリカ主導の対ISIS連合を支持するドイツ政府に対し、支持を撤回しなければドイツ人の人質2人のうち1人を殺害すると警告した。同時に2人の身代金として約560万ドルを要求している。

 フィリピン南部のスールー諸島を拠点とするアブサヤフは、フィリピンからの分離独立闘争を40年以上続けるイスラム過激派組織の1つ。これまでに爆弾テロ、フィリピン人と外国人の誘拐、暗殺など、数多くの流血事件を起こしてきた。

 最高幹部のイスニロン・ハピロンらは今夏に公開したビデオで、カリフ(最高権威者)を自称するISISの指導者アブ・バクル・アル・バグダディに忠誠を誓うと表明した。「われわれはどんなときも彼に従い、他の誰よりも彼を尊重する」

 ただしロンドン大学東洋アフリカ学院の比較政治学者マイケル・ビューラーは、ISISの勢力が東南アジアに拡大する可能性は低いと指摘する。「ISISがフィリピンに拠点を築く危険性があるとは思わない」

 インドネシアのジュマー・イスラミア(JI)やアブサヤフのような東南アジアのイスラム過激派は、自己宣伝のためにISISを利用しているだけだと、ビューラーは言う。「ある過激派組織が国際的な注目を集めるたびに、彼らはその組織に忠誠を誓い、宣伝に使おうとする」

 地元メディアの報道によれば、フィリピン陸軍西部ミンダナオ司令部のルスティコ・ゲレロ司令官は、アブサヤフが注目を集めるためによく使う戦術だと受け止めている。「彼らは国際的な注目を集めるISISを利用して、人質の身代金をつり上げようとしている。彼らは狭い地域レベルの目的のために活動する狭い地域のグループだ。(ISISのような)国際的組織になる兆候は見られない」

 アブサヤフは長年、国際テロ組織のアルカイダも支持しており、一部の作戦では資金援助を受けてきたとされる。それでも勢力はなかなか拡大しなかった。

「このグループの力の源泉は、同じ経済社会的階層に属する親族間の婚姻を通じた密接な人的結び付きにある」と、ビューラーは言う。「こういう構造の組織は大きくなりにくい。実際、人数は増えていない」

[2014.10. 7号掲載]

ミシェル・フロルクルス