桜宮vs山田
4番・松井満沙樹（桜宮）
激戦区大阪における公立の雄、桜宮。3年生が抜けても部員数は110人を超える。旧チームから試合に出ていたのは打撃のいい倉川と新キャプテンの小川で、ファーストの平井も夏前まではメンバーだった。新チームでの打順は倉川は3番に座るが、小川は6番で平井は8番。旧チームから残ったメンバーを下位打線に追いやるほど選手層は厚い。
この日4番を任された松井満沙樹（1年）は8月初旬の時点ではメンバーどころかＣチームだった。それでも「いいもん持ってる」と福原監督が期待を寄せ、1年生ながら唯一のベンチ入りを果たすと序盤にいきなりバットで結果を残す。
1点を先制された桜宮は初回、一死一、二塁で松井が打席に立つと「打ち損じたんですけど、思い切り振れたので抜けてくれました」とレフト前に同点タイムリーを放つ。5番・矢野大樹（2年）もレフト前タイムリーで続きあっさり逆転に成功。2回にも2点を加えなおも一死二、三塁で松井に打順が回ると山田ベは背番号1の宮田伶（2年）に代えて金山明史（1年）をマウンドに送る。
流れを変えて欲しいという山田ベンチの願いが込められたその初球、しかし「投球練習の時からインコースの球が多かったんで、狙ったのが来たので思い切り振りました」と松井が代わり端に痛烈な2点タイムリーをライト前にお見舞いする。この後、呉本直謙（2年）にもタイムリーが飛び出しこの回一挙5得点。
各打者がネクストバッターズサークルで行うプッシュアップ（足を広げてくるぶしを地面に押し付けた状態で行う腕立て伏せ。股関節の動きを良くする狙いがある）の効果が現れたのか打者一巡の猛攻で6点のリードを奪った。
4番・原樹（山田）
「何やっても負けやし、勝つには奇跡信じるしかない。フルスイングして来い」長い守備を終えベンチに戻ってきた選手に山田ベの田原監督は檄を飛ばす。誰の目にも明らかな劣勢に立たされた山田ベだがこの一言から打線がつながる。
3回二死から上位打線の3連打で満塁とすると4番・原樹（2年）がレフトへ2点タイムリー。さらに降板後はライトのポジションに就いていた5番・宮田がライト線へ2点タイムリーツーベース。5連打で4点を返すと中盤は守備陣がギリギリのところで踏ん張る。
3回に背負った一死満塁のピンチで打球は浅いセンターフライ。三塁ランナーはスタートの構えだけで自重する。しかし、センターからのバックホームがやや高く逸れるとリードオフは大きくなる。ホームベース後方で送球を受けたキャッチャー・原はこの隙を見逃さず素早く三塁に送球しタッチアウト。5回にも一死一塁からショートゴロで、6回には無死満塁からセカンドライナーで一塁ランナーが戻りきれず併殺を奪う。3〜6回の4イニングで3併殺。しかもその内2つは満塁からのもの。
桜宮の得点が止まっている間に山田ベは5点のスコアを積み上げ、2回終了時にはコールド決着の予感さえした試合を1点を争う終盤勝負へ持ち込んだ。
4安打を放った1番・村井響（山田）
そして、勝敗に大きく影響する次の1点を先につかみかけたのも山田ベだった。7回、代打・引波晃一（2年）のセンター前ヒットから二死二塁のチャンスを作ると加藤裕也（2年）の打球が三遊間を割る。しかし、打球が代走・山本琴騎（2年）に当たってしまい同点のホームは踏めず。
その後は8回に再びマウンドに戻った宮田が1点を失うと、9回に先頭打者を出塁させるも痛恨の三振併殺。併殺で何度もピンチを凌ぎ食らい付いていた山田ベだったが最後の最後にチャンスを拡大出来ず。3回以降は流れをつかんでいたが、追いつくには至らず2点差で敗れた。
それでも1番・村井響（1年）は4安打、田原監督が「ノーサインで打たせている」と信頼する4番・原は４打点と活躍。原は初回二死三塁から内野安打を放った際には、セーフを確認するとヘッドスライディングで転がりながらガッツポーズを見せ先制点を喜んだ。
先発・宮田が崩れた後は金山が踏ん張り、左腕・鹿田大介（2年）のワンポイントリリーフも成功。
ベンチ入りの4投手を全て使い切り、代打や代走の選手も持ち味を発揮した試合に田原監督は「新チームになってからのベストゲームに違いない」と胸を張る。
スタンドでは、勝者と次戦で当たることが予想される大阪偕星学園の生徒が情報収集のためスコアシートにペンを走らせていた。実は桜宮と大阪偕星学園は9月上旬に練習試合をする予定だったという。大阪偕星学園が富美丘に勝てば、公式戦で対戦が実現する。
桜宮がベンチ入りメンバーを発表したのは月曜日。メンバーとしての練習は1週間足らずで公式戦を迎えたためサインミスをするなどチームとしてはまだ仕上がっていない。「打つ、守るの練習よりも1球の練習、細かいこと含めてケースケースの練習」で調整するという福原監督、次戦について「楽しみです」と笑みを浮かべた。
（文＝小中 翔太）
