プロの目から見る森の活躍の要因

 8月16日、西武ライオンズ対日本ハムファイターズの10回裏、西武ベンチは代打に高卒ルーキーの森友哉を送った。試合はシーソーゲームとなり、10回表に日本ハムが陽岱鋼の本塁打で勝ち越し、西武は7-8とリードされ、崖っぷちの状況だった。

 代打に送られた森は、前日まで2試合連続本塁打を放っており、ファンにとってはたまらない場面。日本ハムのマウンドには、150キロを超える速球を武器とするセットアッパー・増井浩俊が上がっていた。1ボールからの2球目、真ん中高め、見逃せばボールかと思われる151キロの速球を森が振り抜くと、打球はセンターバックスクリーンに飛び込んでいった。

 試合を振り出しに戻す森の代打同点本塁打は、高卒ルーキーとしては46年ぶりとなる、3試合連続本塁打となった。

 大阪桐蔭高校時代には甲子園春夏連覇を経験、甲子園には4度出場し、打率.473、5本塁打を放った森は、2013年のドラフト1位で西武ライオンズに入団。7月27日に初めて1軍に昇格すると、プロ初打席から2打席連続安打をマーク。そして、この3試合連続本塁打を放つに至った。

 森の外連味ないバッティングに、既に心を掴まれているファンも多いだろう。なぜ、森はあれだけ思い切りの良いバッティングができるのか。そして170センチとプロ野球選手としては小柄な部類に入る体格にもかかわらず、あれだけ打球が遠くへ飛んでいく要因は何なのか。

 スポーツコメンテーターの飯田哲也氏はこう語る。

「森君は高卒1年目の選手ですが、技術的なレベルは既にかなり高いところにあります。体は小さいですが、パンチ力があり、そのパンチ力を生み出す早いスイングスピードを持っています。今は、高校生といってもトレーニングがとても発達しているので、打撃の技術が伸びる選手はどんどん伸びていきます。

 ピッチングマシンも150キロを超えるボールを投げることができますし、しっかりしたウエイトトレーニングも行っています。高校生でも、特にバッティングの技術に関しては、プロのレベルに対応できる環境が整ってきている、といえる側面はありますね。森君の打撃に関しては、技術的にある程度出来上がっていますし、起用方法などで、その力を存分に生かせているのだと思います」

今後の飛躍には守備面の成長と重圧がかかる場面での結果が不可欠

 森は7月末に1軍登録され、主に代打での起用が目立っている。捕手として守備機会を得ることはまだ殆どないが、代打で起用されると極めて高い成功率を残している。7打数4安打2本塁打で、1四球を選んでおり、打率.571、出塁率は.625だ。(19日現在)

「森君は、今のところプロとしての経験がないですから、逆に打席に立つのが楽しくて仕方ないと感じていると思います。打席に立って“試合を決めなければ”というようなプレッシャーもありませんし、極めてポジティブにやれているのかなと思います。チームも彼に対して責任を負わせるようなことはありませんし、楽しみながら打席に立つことが、彼の持つ積極性を引き出して、それが好結果に繋がっていると思います。代打成績が良いのは、そうした要因が大きいのではないでしょうか。逆に、これから出場機会が増えていく中で、1試合の重みや勝敗の重要性を嫌でも感じていくようになるので」

 3試合連続本塁打は非常に目立つ事象だったため、森の打撃への注目度は急に高まってきたところもあるが、今後、森はどのような選手になっていくのだろうか。飯田氏は続ける。

「キャッチャーは、試合をコントロールする役割もありますし、1つしかないポジションでもあり、非常に難しいポジションです。ただ、一度レギュラーを掴んでしまえば長くプレーできるポジションでもあります。森君のバッティングがあれば、打つ方はある程度放っておいても伸びていくと思うので、みっちり守備を鍛えていって欲しいですね。

 守備面で成長していけば、レギュラーを奪って10年、20年とプレーできる能力を持った選手です。もちろん簡単なことではありませんが、ベンチにいるときも常に配球を読み、考えながら勉強しながら時間を使っていければ。楽しみな選手なのは間違いないです」

 森はまだ1軍で十数試合に出場しただけのルーキーだが、思い切りの良いパワフルなバッティングはやはり魅力的だ。果たして、どんな打者へと成長していくのだろうか。

飯田哲也プロフィール
スポーツコメンテーター。1968年東京都出身。1987年に捕手としてヤクルトスワローズに入団、主に外野手としてヤクルトの1番バッターを長く務めた。2005年からは2年間楽天イーグルスに在籍。2006年に現役を引退すると、古巣ヤクルトで2013年まで守備・走塁コーチを務めた。
飯田哲也オフィシャルブログ