意外と困る寝違え
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。
夏休みに入り、新チームでの活動に慣れてきた頃でしょうか。この時期は合宿などを行ったり、遠征に出かけたりと普段とは違った環境でプレーをすることも多いと思います。移動時間が長く、いつもとは違う環境での生活の中で疲れなどから、「朝起きたら首が痛くて回らない！」といった経験をした選手もいるのではないでしょうか。今回はアスリートを悩ます首の痛み・寝違えについて考えてみたいと思います。
合宿や遠征などで枕があっていないと寝違えることも
突然首に違和感や痛みをもたらす寝違えですが、よくあるケースとしては、首周辺部の筋肉が硬くなっているところに突然首を横に振ったため、筋を痛めてしまったというものです。
また頭で考える動きと実際に動く体の動きに微妙なズレがあると、体が脳からの指令に反応できずに痛めてしまうこともあります。特に就寝時は体を横にして休んでいますので、筋肉の動きも鈍く、とっさに俊敏な動作を行うことはむずかしいでしょう。朝は筋肉とそれを支配する神経との接続具合（神経の促通）もまだ本調子ではなく、体が目覚めるまでのタイムラグの間に筋肉を痛めてしまうことが考えられます。
その他の環境要因としては普段とは違う場所で知らず知らずのうちに緊張を強いられている場合、強いストレスを感じる状態の時にも寝違えは起こりやすいと言われています。合宿や遠征時などは普段使っているものとは違う枕を使用したり、長時間の移動によって姿勢が崩れたりすることでも、首に大きな負担がかかりやすいことがその一因としてあげられます。
寝違えを起こしやすい選手の特徴首の上にある頭の重さは大人で約5kg程度といわれています。首には常に5kgの重りが乗っている状態なのですが、頭が前のめりになった姿勢のまま過ごすと、首の筋肉は常に緊張を強いられ、さらに大きな力で頭を支えようと余計な力が入り筋肉の硬さにつながってしまいます。スマホや携帯などをのぞき込んだ姿勢は首の負担が大きくなるので、ときどきストレッチなどを行い筋肉の緊張をほぐすようにしましょう。
また首の骨（頸椎：けいつい）は自然な弓なりの形状をしているのですが、ストレートネックと呼ばれる頸椎が真っ直ぐに近い状態になっている人は寝違えを起こしやすいといわれています。これはレントゲンを撮ってみると一目瞭然です。ストレートネックの原因は姿勢にあるといわれていますが、わん曲の少ない頸椎の形状は、物理的ストレスを首周辺部に受けやすく、ジャンプして着地しただけでも首を痛めるといったことが起こりえます。ピッチャーだと牽制時に首をぱっと切り返す際に、野手であればバッティングで大きくスイング動作をしたときに首の筋肉を痛めることがあります。
[page_break:寝違えたときの対処法]寝違えたときの対処法痛みは数日間たつと自然とよくなることが多いようです。ただ痛みがひどい場合は通常のケガと同じように氷などで患部を冷やし、痛みを緩和させるようにしましょう。筋肉の硬さに起因するものについては、痛みが少しおさまってから無理のない範囲で肩や首、肩甲骨周辺部のストレッチを行うようにします。このとき首周辺部を蒸しタオル（濡れたタオルを電子レンジで1分程度加熱する）などで温めると、筋肉の緊張をほぐす効果が期待できます。
また自分で行う徒手抵抗ストレッチという方法もあります。これも行う前に出来れば蒸しタオルなどで患部を温めた後、痛みのある側のこめかみ付近に手をあて、その手に抵抗するように5秒ほど力を入れ、その後力を抜いてリラックスします。これを3〜5回程度繰り返してから、痛みのある側と反対方向にゆっくり伸ばしていくと、筋肉がほぐれて首が動きやすくなります。ただしこれは軽度の場合であり、無理のない範囲で行うようにしましょう。痛みがひどくなる場合は行わないようにしてください。
寝違えに悩まされないために心がけたいことバッティング中の動作でも首を痛めることがある
日々の練習などでのウォームアップ不足は他のスポーツ傷害と同じく、寝違えのリスクも高まります。体を動かすときには十分に体温（筋温）を上げてから行うようにしましょう。疲労がたまっていると感じたら、運動後や入浴後など体が温まっているときにゆっくりと首・肩・肩甲骨周辺部のストレッチをすることも効果的です。また姿勢も大いに関連がありますので、普段から少し気をつけてみるといいのではないでしょうか。痛みがあるのに首をぐるぐる回したり、頸部を強くもんでマッサージすることなどは寝違えを悪化させることがありますので、素人判断で行うことは避けましょう。どうしても痛みがおさまらない、激しい痛みで日常生活にも支障が出るような場合は我慢せず、すぐに医療機関で受診しましょう。
意外と困る寝違え●起床時は体が目覚めるまでのタイムラグによって寝違えを起こすことがある●合宿や遠征先などで「枕が変わる」、強いストレスを感じているといったことも原因の一つ●ストレートネックの選手はその形状から首を痛めやすい●スマホや携帯などをのぞき込んだ姿勢は首の筋肉の過緊張につながる●痛みがひどい場合はケガと同じようにまず患部を氷で冷やす●軽度の場合は首周辺部を温める、ストレッチをすることで良くなることがある
（文＝西村 典子）
次回、第100回公開は8月31日を予定しております。
