ボルテックスの1つ「エアポートメサ」から望むサンダーマウンテン

写真拡大 (全2枚)

地方出身者の筆者にとって、東京ディズニーランドは憧れの場所だった。小学生の時に同級生が親と東京へ出かけて、ディズニーランドへ連れて行ってもらった話しをクラスで聞くと、とてもうらやましく感じたものだった。スペースマウンテンに1日に何回乗ったとか、長蛇の列ができるアトラクションをハシゴしたという小学生の武勇伝は、当時一度もディズニーランドを訪れたことがなかった私にとって、どこか別世界のことのように聞こえた。

同園を代表する絶叫マシンに、ご存じビッグサンダー・マウンテンがある。東京ディズニーランド公式サイトによれば「熱狂のゴールドラッシュが過ぎて数十年、いまや無人と化した廃坑を、猛スピードで駆けぬける鉱山列車」をモチーフにした、米国西部フロンティアをイメージするジェットコースターの1つだ。

じつはこのビッグサンダー・マウンテン、実在する。正確に言うと、アトラクションのようなものがそっくりそのまま現地にあるというわけではなく、「サンダーマウンテン」という山が存在する。どのようなところなのか、実際に行ってみた。

訪れたのは米南西部アリゾナ州の北、セドナの町。ここは米先住民たちによって、神々が住む神聖な土地と伝えられてきた。周囲には「ボルテックス」と呼ばれる大地のエネルギーが集まるとされる場所が点在し、科学的根拠が示されている訳ではないが、一種のパワースポットとして国内外から多くの観光客がやってくる。

岩山の頂上などに位置するパワースポットに到達すると、白人観光客がガイドの手順に従って神妙な顔で瞑想をしていた。鈍感な私は、頂上からの絶景にはしゃいで写真を撮ったりしただけで何も感じなかったが、現代米国でもその神聖さはいろいろな形で受け継がれているようだ。そのなかで、サンダーマウンテンはセドナの町から見て北西部にそびえ立つ。赤茶けた岩山に所々緑が映える景色が、まさに東京ディズニーランド内ウエスタンランドのコンセプトそのままだ。

セドナを中心とする独特な地形は、オーククリークと呼ばれる川によって削られ作られた。流れる水もこれまたウエスタンランドと同じく、少し黒みがかった色がついたものである。ウエスタンランドの風景は、単に「アメリカ西部っぽいもの」をイメージしたのではなく、ちゃんと細部まで実際に倣っていた。

町の空気は、ビッグサンダー・マウンテンのアトラクションとは逆に、ゆっくりしている。米先住民のアートグッズからコンテンポラリーなものまで、さまざまな店が点在し、各地からやってきた人々が、乾燥地帯に必死に根を張る低木と鉄分を含む赤い大地が作りだした景観の中で、静かに休暇を楽しんでいる。セドナ観光局によれば、有名なグランドキャニオンに次ぎ、セドナはアリゾナ州で第2位の人気を誇っているという。じつに年間300〜400万人を受け入れ、芸術家や退職後の余生をここで過ごす人も多いそうだ。

日本からサンダーマウンテンを見に行くにはどうすればいいのか? 現在、日本からセドナまでの直行便はない。そのため、米西海岸の都市で乗り換えて、セドナの南にあるフェニックスまで飛び、そこから車で約2時間かけて向かう。もしくは、カジノで有名な町ラスベガスから約5時間の運転が必要だ。本物のウエスタンランドの懐でゆっくりしてみたいと思った人は、今夏の旅行先の候補に加えてはどうだろう。そこには日々の騒がしさから離れた、落ち着いた時間が流れている。
(加藤亨延)