親が超真剣に集まるお見合い大会「お見合い広場」って?

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さまざまな要因で晩婚化が進む日本。昔ほどではないにせよ、両親からの「まだ結婚しないの?」という有形無形の圧力に、つい実家から足が遠のくという人もまだまだいることだろう。
ここ中国でも、日本同様に晩婚化は社会問題化しており、適齢期を過ぎても結婚できない男女を表す「剰男・剰女(シャンナン・シャンニュウ=売れ残りの男性・女性)」などという単語も数年前から定着しているくらいである。

もともと学歴、収入、マンション保有など、他国に比べて条件が厳しくて有名な中国の結婚事情だが、出会いの場がないわけではなく、婚活パーティや婚活サイトなども活況を呈している。しかし、そんな出会いはと一線を画す空間が上海には存在する。市内ど真ん中人民公園で、毎週末に開催される通称「お見合い広場」である。

約10年前に自然発生的にスタートしたこの催しは、その名前から想像されるような適齢期の男女が公園で楽しく出会うイベントではない。結婚できない息子・娘を心配した「親」が「自分の子供の条件」と「相手に求める条件」を持ち寄る場所なのである。本人は登場しない親同士のお見合い大会。そこには街コン的なゆるい雰囲気は微塵もなく、平均年齢約60歳の親たちの、ただただ切実な思いが坩堝と化した真剣きわまりない空間だ。

▲不動産広告のようだが全てお見合い条件である。

▲傘に我が子の条件を貼り付け、ひたすら相手を待つ人も。

実際に「お見合い広場」ゾーンに入ると、まずその「数」に圧倒される。最初に人からこの催しの話を聞いたときは、せいぜい町内会の寄り合い程度の和気あいあいとしたものを想像していたのだが、全くそんなレベルではない。ざっと少なく見積もっても数万人の条件が青空のもと貼り出されている。もともと人が多い中国とはいえ、尋常ではない数だ。
我が子の条件を自ら張り出す親御さんもいれば、やり手ばばあ的な風貌で相談に乗っている仲介業者もいて、会場はかなりしっちゃかめっちゃかである。

▲仲介業者も乱立。相談に乗っているのはキャラクターの濃い人ばかり。

ひとつひとつ条件を見て行くと、男性は70年代生まれ、女性は80年代生まれが多数派。
書かれている条件は、生年、身長、学歴、仕事、性格といったところで、意外にも年収を書いている人はそんなに多くない。
やたら身長条件が細かい人が多く「女性で自分は161cm、相手は173cm以上希望」など、そこまで1cm単位でこだわる理由は何なのか。

やはりというか、年齢が若い人は比較的「相手に求める条件」も多いのに対して、年齢が上になると条件はどんどん緩くなる。

例えば、実際にあった84年生まれの上海在住の男性の条件はこうである。
・自分の条件:84年生まれ、身長176cm、体重75kg、上海交通大学医学部卒、医師、勤務場所・住居は地下鉄8号線沿い
・相手に求める条件:85年〜88年生まれ、身長162cm以上、顔良し、性格良し、家庭環境良好、初婚、地下鉄8号線沿いで勤務
本人が医師とはいえなかなかの狭さである。年齢はわずか3年の範囲、身長は1cm単位、地下鉄路線まで指定している。

これに対して70年生まれの上海在住の男性の条件はこうである。
・自分の条件:70年生まれ、身長170cm、大卒、百貨店店員
・相手に求める条件:45歳くらい
もはや何でもいい状態である。少し哀しくなってきた。

▲少ないが写真付きの人も。これはどこで撮った写真なのか。

中には海外在住のお子さまコーナーもある。シンガポールやアメリカなど海外に住んでいる独身の息子・娘を心配した両親が張り出しているのだ。もちろん日本在住の方もいて、ざっと眺めただけでも東京や大阪のIT企業やデパートに勤務している方が掲載されている。

そもそもこのお見合い広場は、本人の同意を得ないで来ている親が多いと言われるのだが、この海外コーナーに至っては、まず間違いなく本人は知らない。日本でこれをご覧のあなた、親御さん勝手に募集してますよ。

▲大阪に住んでいる女性。たぶんこの人はこれが張り出されていることを知らないことだろう。

▲東京に住んでいる女性。なんと慶応卒で東京の大企業にお勤め。東京近辺で勤務する男性を希望。ここに掲示してうまくマッチングされるのだろうか。

しかし、こんなやり方で実際に上手く結婚している人はいるのだろうか。

道ばたに座って条件提示していた優しそうなおじさんに話しかけてみると、ここのところ毎週来ているとのこと。娘さんは34歳の上海人。仲介業者にも張り出してもらっているし、自らもここに来て条件を張り出しているらしい。
意外にも結構な頻度で電話がかかってくるのだそうだ。過去、何度か本人同士のお見合いにまで発展したこともあるらしいのだが、ご成婚には至っていないとのこと。

おじさんは、当初、縁談で声をかけてくれたと思ったのかすごく丁寧な口調だったが、私が物見遊佐の既婚日本人だとわかると、あまり相手をしてくれなくなった。それだけ真剣だということだろう。すみません。

よく考えると、不動産にしても今や仲介サイトが数多くある中、街の不動産屋さんは残っていてそれぞれ個性を発揮している。ましてや縁談は人と人とのつながり。最初から親の顔が見えるこの方法は意外にも理にかなっているのかもしれない。
ただ大多数の「結婚してない本人」にとっては、大きなお世話なんだろうけど。

▲死ぬほどいる仲介業者の中で「コンピューターで条件マッチングするのはうちだけ」という広告。この空間のアナログ度合いが伺い知れる。

このお見合い広場。来ている人々はいたって真剣だが、ここまでカオスになると、もはや「面白いもの」になっていて、観光地化している。
地下鉄の駅からもすぐ近くで、外国人も大勢見に来ているので、上海に旅行で来られた際は、ぜひ一度ご覧頂きたい。
(取材・文/前川ヤスタカ)