芝vs都立江戸川
今大会の東東京の見どころの一つとして、いわゆる甲子園常連校や強豪私学と言われるところだけではなく、都立校や進学校など中堅校に、好投手が多くいることである。中高一貫の私立進学校の芝と、都立中堅校として全体的に部活動が盛んなことでも知られている都立江戸川にも、注目される好投手がいる。そんな両校が初戦でぶつかってちょっともったいないかなと思われるカードでもある。
芝には188?87kgという大型左腕の田中 裕貴君がエースで4番としてチームを引っ張る存在だ。田中裕君は立ち上がりにやや不安なところもあるが、「1球とてつもなくいいという評価を受ける能力よりも、100球をきちんといい球を投げられる能力の方が大事なんだ」ということを田中央監督から言われ続けてきた。「基本的にはお坊ちゃんで、よい子なんですけれども、一生懸命練習して、闘志を表に出せるようになってきたのかなと思います」と、最後の夏へ向けて田中央監督の評価も上がってきていた。
都立江戸川の�盒� 瑠平君は182?75kgとバランスのとれた体つきで丁寧な投球で安定感がある。芝浩晃監督も、「試合を作ることが出来ますから、安心して任せられます」と全幅の信頼を置いている。この日も、初戦ということで硬さもあったであろうし、「もっといい時の高橋を見てきていますから…」と、芝監督としては絶好調ではないと思いつつも高橋君に託していた。
先制したのは芝で、2回に5番村田君が中前打で出ると、バントで進め、西田君が左前打でつないで一三塁とすると、8番清水君がスクイズ（記録は安打）を決めた。しかし、都立江戸川もその裏すぐに、先頭の5番加藤君が右越三塁打すると、高橋君の一打は右翼手の前にポトンと落ちるテキサス安打となって同点。都立江戸川はさらに１死一二塁から、バントで2死二三塁として１番 南 壮流君へつないだが追加点はならなかった。3回、5回も無死で安打の走者を出したが、牽制球で刺されるなどその後を田中裕君に抑えられて、次の1点が取れなかった。
しかし都立江戸川は、6回に先頭の4番奥田君が右中間三塁打すると、1死後高橋君のスクイズで突き放した。お互いにスクイズで得点しあうという、まさに好投手同士の投手戦らしい内容となった。
すぐに反撃した芝も、7回に9番関根君の三塁内野安打と、若干厳しいコースを突こうと意識し過ぎた高橋君が連続四球を与えて満塁となったところで、芝ベンチは関口君にスクイズを指示。これをきっちり決めて、なおも2死二三塁で4番田中裕君だ。ここは、歩かせてもいい場面だった。都立江戸川ベンチとしても外すことを指示していたが、これがやや中途半端に高くなってしまって、そこをリーチの長い田中裕君が捉えて左前打とした。これが決勝打となった。
自分のバットでリードした田中裕君は、７回以降を１死球のみの無安打に抑えた。この3イニングこそ、田中央監督がエースに求めていた投球だったのではないだろうか。点の取れる少ないチャンスで2本のスクイズをしっかり決め、守りもノーエラーで戦った芝。会心の勝利で2回戦へと駒を進めた。
また進学校の芝は、明日からは試験だというのにスタンドには多くの3年生が応援に訪れていた。ほとんどの部活動で3年生は引退している中で、最後まで活動している野球部を応援しようと、試験前にもかかわらず応援に駆け付けてくれた仲間の声援に応える好試合だったともいえよう。
一方、エース高橋瑠君が安定しているだけに、密かに上位進出を狙っていた都立江戸川。試合後は、涙にくれていたが、最後のミーティングでは芝監督が3年生人の一人と握手していっていた。泣き崩れる選手に一言かけながら、その頭を軽くポンと撫でてあげている芝監督の姿を見て、保護者たちもまたもらい泣きをしていたシーンが印象的だった。毎年のことながら、夏の大会の胸の詰まるワンシーンである。惜しくも初戦で姿を消すこととなった昨夏ベスト8の都立江戸川。先輩達の想いを胸に、一足早い「新チーム」を迎える。
（文＝手束 仁）
