「半沢直樹」以来の復讐ブームの中で「恨みを和らげていただきたい」と訴える「死神くん」の異彩
2014年4月期のドラマがほぼスタートして、目下、2話、3話・・・と進行中だ。
毎期、刑事ものが多いとか医療ものが多いとか、なんらかの傾向が見られるので、今期はどうかと考えたところ、「リベンジもの」が多いことに気づいた。明らかに「倍返しだ!」の「半沢直樹」の影響だろう。
例えば、「半沢直樹」と同じ原作者・池井戸潤の小説のドラマ化「ルーズヴェルト・ゲーム」1話(TBS日曜9時)では、会社経営に窮している社長(唐沢寿明)に会長(山崎努)は「逆転すればいい」と焚き付ける。
同じく、池井戸ドラマ「花咲舞が黙っていない」(日本テレビ水曜10時)は、主人公(杏)の決め台詞が「お言葉を返すようですが」。彼女は相手の言い分をくるりとひっくり返す(逆転)。そういえば、杏は「保険をくるり」というCMもしていたっけ。
「もう全部捨ててきた。父を死に追いやった人間にひとり残らず復讐するために」と思い詰めているのは、「アリスの棘」(TBS金曜10時)の主人公(上野樹里)。
「死者の無念をはらす仕事についている」と、死者に変わって殺人犯を捕まえるのは「BORDER」(テレビ朝日木曜9時)の主人公(小栗旬)。
「呪われるぞ。おまえは必ず百舌のはやにえ(早贄)にされる」なんて、物騒な台詞が出てきたのは、「MOZU」(TBS木曜9時)。
「極悪がんぼ」(CX 月曜9時)では、主人公(尾野真千子)が「型にはめられるのはこれが最後よ。これからはきっちり型にはめたるわ」と凄んでいる。
ついには、朝ドラ「花子とアン」(NHK月〜土8時)までも復讐ものに。第4週で、主人公(吉高由里子)を、未来の腹心の友(仲間由紀恵)が、「復讐したい人がいるの。はなさん、わたくしの復讐につきあってくださらない?」と挑発して、はなと一緒にドキドキしてしまった。
今、ドラマでは、誰もかれもが、自分の不利益に向き合ったとき、そこから脱するべく、自分と相手の立ち位置を入れ替え、相手に自分が受けたものと同じ目に合わせてやろうと知恵をしぼっている。
作戦が成功したら、逆転や復讐ほどすっきり爽快なものはない。もっとも、ドラマだからうまくいくに決まってるが。
成功に至るまでの逆転また逆転の展開は、連続ドラマには必要不可欠な要素でもある。そもそもミステリーは、犯人の仕掛けた謎に対するリベンジ、医療ものは、病気に打ち勝つというリベンジだから、好まれるのも当然。「ロング・グッドバイ」(NHK土曜9時)は、探偵(浅野忠信)が、偶然知り合った男(綾野剛)の意外な死の真相を探るミステリーだ。
逆転や復讐ドラマ全盛の中、「死神くん」(テレビ朝日 金曜11時15分)は異彩を放っている。
死神くん(大野智)の仕事は、死者を天界につれていくこと。また、死が間近に迫った人間に期日を伝え、それまでに覚悟をしてもらうことも仕事のひとつだ。
ドラマは、死と向き合ったとき、人間がどういう考えに至り、どんな行動に出るか、その姿を、死神くんとゲストキャラの交流を通して描いている。
そこに「復讐」精神はいっさいない。
それどころか、4月25日放送の2話では、死神くんは「恨みを和らげていただきたい」と言うのである。
2話のゲストキャラ・島(林遣都)は、ヒトの死をビジネスにする生命保険会社に勤めている。あるとき、成績ばかり気にする上司(神保悟志)に腹を立て、拾った死神手帳に、「(上司が)死ぬ」と書いてしまう。死神手帳に名前と死因を書かれると死んでしまうので、上司は本当に死にそうになって入院。そこへ死神くんがやってきて、「(島の)恨みを和らげて・・・」と言うのだ。
勝手に手帳に書き込みをされて困っているからとはいえ、この恨みはらさでおくものか! の時代に、恨みを和らげるとは、新鮮だった。
島はさらに、仲良しの少年が死ぬ運命だと知ると、身代わりに自分の名前を死神手帳に書き込む。この物語では、天界に送られる人数は決まっていて、誰かが代わりに死んだ場合、もうひとりは死なずに済むという設定になっている。
1話は、死を死神くんに宣告された少女が、事故で目が見えなくなった友人に自分の角膜を譲ることにするという話だった。
1話も2話も、死神くん(大野智)から死を宣告されたゲストキャラが、他人を幸福にしてから天に召されていく。いろいろな葛藤を経験した人間が、死の間際に善いことを行い、清らかな心でこの世から去っていくという、それもひとつの「逆転」ではある。ただ、「死神くん」では、自分の受けたいやな思いを、誰かに肩代わりさせるということに力点が置かれていないのだ。
登場人物の善悪の役割も、明確に分かれていなくて、死を宣告されたゲストキャラに対していやなことをした人物が完全に悪でもないし、死を宣告された当事者にも、心の弱さや狡さがある。少なくとも2話まではそうだった。
5月1日放送の3話からは、3つの願いを叶える代わりに魂をもらうという、「人間の弱みにつけこみ、無理矢理魂を奪う下衆野郎」の悪魔(菅田将暉)が出てくるので、また少し流れが変わるだろうけれど、死神くんの、なんだかんだで人間の善意に寄っている立場は変わらないと思われる。
ザッツ・リベンジ!というようにショー化されたドラマと比べると、死神くんの有り様には派手さはないが、心に染み入るものがある。
2話で、死神くんは「人間は死んだほうが幸せと教わった」と言い、島は「生きてりゃいいことがあるっていう幻想が街中にばらまかれている」と嘆いた。
良いことを奪い合うために闘い続ける物語が多い中、こんな哲学的な問答の登場する「死神くん」は新鮮だし、こういう簡単に答えの出せないドラマが一作くらいあって良かったと思う。
さて、ここまで読んで「弱くても勝てます」(日本テレビ土曜9時)はどうなの?と思った方もいるだろう。
タイトルは、逆転の発想そのものだが、主人公(二宮和也)は「勝ったからといってえらいわけじゃないし負けたからといってだめってわけじゃない」と主張し、主人公の住居の管理人(薬師丸ひろ子)は3話で「負けてもいいから見応えのある試合をしなさい」と助言する。実はいわゆる「逆転」とか「リベンジ」とかとは関係ないことを描いているのだ。これについてはまたの機会に。
(木俣冬)
第1話レビュー
毎期、刑事ものが多いとか医療ものが多いとか、なんらかの傾向が見られるので、今期はどうかと考えたところ、「リベンジもの」が多いことに気づいた。明らかに「倍返しだ!」の「半沢直樹」の影響だろう。
例えば、「半沢直樹」と同じ原作者・池井戸潤の小説のドラマ化「ルーズヴェルト・ゲーム」1話(TBS日曜9時)では、会社経営に窮している社長(唐沢寿明)に会長(山崎努)は「逆転すればいい」と焚き付ける。
同じく、池井戸ドラマ「花咲舞が黙っていない」(日本テレビ水曜10時)は、主人公(杏)の決め台詞が「お言葉を返すようですが」。彼女は相手の言い分をくるりとひっくり返す(逆転)。そういえば、杏は「保険をくるり」というCMもしていたっけ。
「もう全部捨ててきた。父を死に追いやった人間にひとり残らず復讐するために」と思い詰めているのは、「アリスの棘」(TBS金曜10時)の主人公(上野樹里)。
「死者の無念をはらす仕事についている」と、死者に変わって殺人犯を捕まえるのは「BORDER」(テレビ朝日木曜9時)の主人公(小栗旬)。
「呪われるぞ。おまえは必ず百舌のはやにえ(早贄)にされる」なんて、物騒な台詞が出てきたのは、「MOZU」(TBS木曜9時)。
「極悪がんぼ」(CX 月曜9時)では、主人公(尾野真千子)が「型にはめられるのはこれが最後よ。これからはきっちり型にはめたるわ」と凄んでいる。
ついには、朝ドラ「花子とアン」(NHK月〜土8時)までも復讐ものに。第4週で、主人公(吉高由里子)を、未来の腹心の友(仲間由紀恵)が、「復讐したい人がいるの。はなさん、わたくしの復讐につきあってくださらない?」と挑発して、はなと一緒にドキドキしてしまった。
作戦が成功したら、逆転や復讐ほどすっきり爽快なものはない。もっとも、ドラマだからうまくいくに決まってるが。
成功に至るまでの逆転また逆転の展開は、連続ドラマには必要不可欠な要素でもある。そもそもミステリーは、犯人の仕掛けた謎に対するリベンジ、医療ものは、病気に打ち勝つというリベンジだから、好まれるのも当然。「ロング・グッドバイ」(NHK土曜9時)は、探偵(浅野忠信)が、偶然知り合った男(綾野剛)の意外な死の真相を探るミステリーだ。
逆転や復讐ドラマ全盛の中、「死神くん」(テレビ朝日 金曜11時15分)は異彩を放っている。
死神くん(大野智)の仕事は、死者を天界につれていくこと。また、死が間近に迫った人間に期日を伝え、それまでに覚悟をしてもらうことも仕事のひとつだ。
ドラマは、死と向き合ったとき、人間がどういう考えに至り、どんな行動に出るか、その姿を、死神くんとゲストキャラの交流を通して描いている。
そこに「復讐」精神はいっさいない。
それどころか、4月25日放送の2話では、死神くんは「恨みを和らげていただきたい」と言うのである。
2話のゲストキャラ・島(林遣都)は、ヒトの死をビジネスにする生命保険会社に勤めている。あるとき、成績ばかり気にする上司(神保悟志)に腹を立て、拾った死神手帳に、「(上司が)死ぬ」と書いてしまう。死神手帳に名前と死因を書かれると死んでしまうので、上司は本当に死にそうになって入院。そこへ死神くんがやってきて、「(島の)恨みを和らげて・・・」と言うのだ。
勝手に手帳に書き込みをされて困っているからとはいえ、この恨みはらさでおくものか! の時代に、恨みを和らげるとは、新鮮だった。
島はさらに、仲良しの少年が死ぬ運命だと知ると、身代わりに自分の名前を死神手帳に書き込む。この物語では、天界に送られる人数は決まっていて、誰かが代わりに死んだ場合、もうひとりは死なずに済むという設定になっている。
1話は、死を死神くんに宣告された少女が、事故で目が見えなくなった友人に自分の角膜を譲ることにするという話だった。
1話も2話も、死神くん(大野智)から死を宣告されたゲストキャラが、他人を幸福にしてから天に召されていく。いろいろな葛藤を経験した人間が、死の間際に善いことを行い、清らかな心でこの世から去っていくという、それもひとつの「逆転」ではある。ただ、「死神くん」では、自分の受けたいやな思いを、誰かに肩代わりさせるということに力点が置かれていないのだ。
登場人物の善悪の役割も、明確に分かれていなくて、死を宣告されたゲストキャラに対していやなことをした人物が完全に悪でもないし、死を宣告された当事者にも、心の弱さや狡さがある。少なくとも2話まではそうだった。
5月1日放送の3話からは、3つの願いを叶える代わりに魂をもらうという、「人間の弱みにつけこみ、無理矢理魂を奪う下衆野郎」の悪魔(菅田将暉)が出てくるので、また少し流れが変わるだろうけれど、死神くんの、なんだかんだで人間の善意に寄っている立場は変わらないと思われる。
ザッツ・リベンジ!というようにショー化されたドラマと比べると、死神くんの有り様には派手さはないが、心に染み入るものがある。
2話で、死神くんは「人間は死んだほうが幸せと教わった」と言い、島は「生きてりゃいいことがあるっていう幻想が街中にばらまかれている」と嘆いた。
良いことを奪い合うために闘い続ける物語が多い中、こんな哲学的な問答の登場する「死神くん」は新鮮だし、こういう簡単に答えの出せないドラマが一作くらいあって良かったと思う。
さて、ここまで読んで「弱くても勝てます」(日本テレビ土曜9時)はどうなの?と思った方もいるだろう。
タイトルは、逆転の発想そのものだが、主人公(二宮和也)は「勝ったからといってえらいわけじゃないし負けたからといってだめってわけじゃない」と主張し、主人公の住居の管理人(薬師丸ひろ子)は3話で「負けてもいいから見応えのある試合をしなさい」と助言する。実はいわゆる「逆転」とか「リベンジ」とかとは関係ないことを描いているのだ。これについてはまたの機会に。
(木俣冬)
第1話レビュー