強豪相手にどう勝つか。内田篤人が手にした「解答」
ブラジルW杯まで176日
『ザックジャパンの完成度』
連載◆第27回:内田篤人
ブラジルW杯の組み合わせが決まったあと、日本代表のザッケローニ監督には余裕の表情が見て取れた。彼が穏やかな表情で組み合わせの結果を受け止めたのは、11月の欧州遠征で、オランダ(2−2)、ベルギー(3−2)という世界の強豪相手に1勝1分けという結果を出せたからだろう。
実際、6月にW杯出場を決めてから、不甲斐ない試合が続いていた日本代表メンバーにとっても、あの2戦は特別な意味を持つ試合だった。
右サイドバックの内田篤人は、オランダ戦後、「少しずつ、自分たちの力が出せるようになってきた」と、ホッとした表情を見せた。そして、「オランダ戦は、自分のミスで......」と言って、話を始めた。
「(自分のミスで先制されて)日本の勢いが止まってしまったので、申し訳ないと思った。最近、失点に絡むことがなかったんで、前半は結構引きずっていましたね。どうにか(ミスしたことを)取り返そうと思っていたけど、なかなか難しかった。
(失点のシーンは)トラップしようとしたら、目の前に相手の7番の選手(FWイエレマイン・レンス)がいたし、外に(ボールを)出そうとしたら相手が詰めて来ていた。そこで迷っていたら、あんなミスをしてしまった(ボールを頭で受けて中央にクリアミス。そのボールを敵に奪われて失点)。DFは失点に絡んではいけないし、組織で守れていても個人で、オレみたいなミスが増えると失点を免れない。それがわかっているんで、余計に悔しかった。何にしても、オランダのような強い相手とやって、ミスして先制点を取られると厳しい。そこは、反省しないといけない」
ミスを引きずっていたという内田だったが、後半はうまく気持ちを切り替えられたのか、積極的なプレイを披露。15分、自らのミスを取り戻す働きを見せた。
遠藤保仁からの長いボールを受けた内田は、前線の岡崎慎司にくさびのパス。岡崎がそのボールを本田圭佑にはたいて、本田は中央に切れ込んできた内田に再びダイレクトパスを出すと、内田はスペースに走り込んできた大迫勇也にスルーパス。大迫がアウトサイドではたいたボールを、最後は本田がダイレクトでシュートを決めた。攻撃に絡む選手たちが綺麗な"三角形"を維持して、見事な連動から生まれたゴールだった。
「あれは、オレの中ではイメージどおり。オカちゃん(岡崎)から流れてきたボールを受けて、大迫が(ペナルティーエリア内に)入ってきたのがチラッと見えたんで(パスを)出した。あとは、前の選手たちの技術の高さです。まあでも、こういう形というか、いろいろな選手が顔を出して、ペナルティーボックスの中に入っていけると、シュートチャンスも増えてくると思う」
こうした攻撃の形は、10月の欧州遠征、セルビア戦(0−2)やベラルーシ戦(0−1)では見られなかった。それが実践できたのは、なぜだろうか。
「今回の遠征の練習は、結構ゲーム形式の練習が多かったんですよ。その中で自分たちの感覚が合ってきたのかなって、個人的には思っています。戦術どうこうよりも、肌を合わせていく感じですね。特にオレが絡んだゴールは、守備の連係から生まれたゴールなんで、練習の成果が出たのかな、と思います」
ザッケローニ監督の要求は、攻守それぞれにおいて細かく、グループごとに同じ形を繰り返して練習することで、選手たちは求められるスタイルを習得していく。そのせいか、これまではゲーム形式の練習はそれほど多くなかった。だが、ゲーム形式の練習が増えて、それまでに身につけたものが、選手間で、互いの肌で感じ取ることができたのだろう。それが、実際の試合でもうまく絡み合って、機能し始めたのかもしれない。
「でも(オランダに)2−2に追いついてから、勝ち切れないのは問題でしょ。監督も言っていたけど、日本は何回もチャンスを作れないと点が取れない。決定力がないと言われ、少ないチャンスで点がとれない。そこは、日本の大きな課題だと思います」
しかし内田の懸念は、続くベルギー戦で多少は払拭された。完全なアウェーの戦いの中で、逆転勝ちしたのである。
「2試合ともいい試合ができた要因のひとつは、相手よりも走れたからでしょ。シャルケでは、チャンピオンズリーグの試合で負けたとき、選手ひとりひとりの(試合中の)走行距離を出されるんです。で、『おまえは、これだけしか走っていない』って、(首脳陣から)指摘されるんですよ。(ドイツの強豪)ドルトムントやバイエルンは、1試合で選手みんなが走る距離の合計が120kmほどになる。そういう意味では、走るのは基本だし、それがないと勝てないのはよくわかる」
もちろんベルギーは、走り勝つだけで勝てるような相手ではない。日本の決定力が、数日で飛び抜けてアップしたわけでもない。結果を出せた要因は、他にもある。
「みんな、(試合に)集中していた。そして、(日本の1点目となる)柿谷(曜一朗)のゴールは、(酒井)宏樹の前に出て行く勇気というのももちろんあるけど、ベルギーの左サイドのアザールは相手攻撃に対して、ディフェンスでついてこられないのがわかっていた。そうしたスカウティングも当たっていた。試合に勝てたのは、そういう(日本の)総合的な力があったかな、と思います。あと、後半に入った選手が活躍したけど、チームとしてそういうつながりがあると、勝ちに結びつくのかな、と思いました」
強豪相手での勝ち方。それは、選手個々のプレイだけではなく、さまざまな力が結集した総合力がポイントになる。オランダ、ベルギーとの2試合で、内田はそのことを確信し、W杯への手応えも少なからず感じたようだった。
佐藤 俊●文 text by Sato Shun