埼玉栄高校相撲部が実践している 強靭さ・柔軟さを高める足裏基礎トレーニング 前編 今年のインターハイ団体戦で4年ぶり8度目の優勝を遂げた埼玉栄高校(埼玉)相撲部へと潜入。他競技への理解も深い山田道紀監督に、実際の動きも示して頂きながら、足裏の奥義を伝授してもらった。
「野球」と「相撲」。並べてみると最も縁遠そうな2競技である。しかしながら「足裏」というキーワードでつなげてみるとどうだろう?
野球は走・攻・守に渡り全て「足裏」がなければ成り立たないスポーツ。相撲も足裏の動きが勝敗に直結するスポーツ。そういえば、ベースランニングの動きも、相撲の土俵を回る動きも「円運動」。遠いようで実に近い関係が日本の伝統スポーツ競技間には存在しているのだ。
では、相撲における足裏の動きとはいかなるものか?そこで私たちは今年のインターハイ団体戦で4年ぶり8度目の優勝を遂げた埼玉栄高校(埼玉)相撲部へと潜入。過去には高校球児を冬季トレーニングで受け入れるなど他競技への理解も深い山田道紀監督に、実際の動きも示して頂きながら、足裏の奥義を伝授してもらった。
栄光を勝ち取るための「足裏基礎トレーニング」去る9月29日に千秋楽を迎えた大相撲秋場所。東関脇は妙義龍。2度目の殊勲賞を獲得した西関脇・豪栄道(共に境川部屋)。西前頭13枚目で10勝の豊真将(綴山部屋)、西前頭14枚目で勝ち越しの常幸龍(木瀬部屋)。横綱・大関含めても44人しか入れない狭き門・幕内の中でも4人が埼玉栄高校相撲部である。
プロだけではない。東京国体において成年男子個人で優勝した中村大輝(日体大3年)も出身は埼玉栄高。このように日本の相撲界をも牽引している高校相撲界屈指の強豪・埼玉栄高校相撲部は、さいたま市西区にある校内相撲道場において、日々激しい稽古に励んでいる。
ただ、意外にも朝・放課後・夜と続く稽古の大半は基礎練習とウエイト、足首ストレッチ。「普段の練習でウチは10〜15番くらいしか相撲は取りませんよ」と山田監督も語るように、取材日の稽古も相撲の王道「四股(しこ)」から始まった。
映像で見て頂ければ歴然だが、どの力士たちも見事な四股を踏んでいる。声で呼吸を合わせ高々と片脚を上げ、力強く大地を踏みしめる。ではなぜ、ここまで片脚だけでバランスを保てるのだろうか?そう思った瞬間、山田監督が秘訣を教えてくれた。
[page_break:走塁や守備での「一歩目」に通じる「すり足」]走塁や守備での「一歩目」に通じる「すり足」「5本の指全体で砂を噛むようにして足裏で支えながら、立ち脚側のひざ内側に力を集中させるんです」
これを聞いた高校球児の皆さんでピンと来た方はきっと投手経験者だろう。まず足を上げて立ち脚のひざ裏にパワーをため、体重移動しながら逆の脚を踏み込み、腕を振って投げる際に100%の力を出し切る。「ボールを持つ、持たない」の差はあるが、体の動かし方では相通ずる点が様々ある。
四股に続き、指を当ながら、足全体を使いかかとを上げず、右手と右脚、左手と左脚を同時に出しながら土俵周りを周回する「すり足」もそう。相手の技に耐え、自分の力を相手に伝える下半身を作るために、まるでムカデのように上半身を平行移動させながら進んでいく原理は走塁や守備での「一歩目」に通じるものがある。
しかも、だ。この「すり足」は足裏全体を使っているがゆえに鍛えれば、映像にもあるように後ろ向きでも、右にも左でもスピード調整、急停止、急発進も自在にできる。現在、イチロー(愛工大名電→オリックス→シアトル・マリナーズ→ニューヨーク・ヤンキース)や中田 翔(大阪桐蔭→北海道日本ハム)など、多くの野球選手が「すり足打法」を採用しているが、自在な対応を出来る点において「すり足」は理に適った方法だといえるだろう。
(文=寺下 友徳)