2013年09月30日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

iPhone5sを入手した。iOS7にアップデートしたiPhone5と比べてみれば、指紋認証システムとカメラ機能以外ほとんど差異はないというのが実感だ。

指紋認証によるロック解除はたしかに便利だし、カメラ機能も自動連射できるバーストも動画のスローモーションもおもしろい。スポーツシーンの撮影などにはもってこいで、利用する機会も増えるだろう。特にバーストはシャッターボタンを触れていればいいわけで、直感的に誰でも使える良さがある。

とはいえ、指紋認証については早速セキュリティエラーが見つかり、その穴埋めとしてのiOSアップデートが行なわれたが、アップデート後は指紋の認識エラーを繰り返して、とても使いづらくなった(僕のiPhone5sだけの問題かもしれないが)。

カメラ機能も、画素サイズの拡大における写真そのものの美しさの向上や、True Toneフラッシュといった技術向上については、1ユーザーとしての感想を述べるならばさほどの感慨は受けない。買い替えたことを後悔はしないし、前述の通り常時携帯しているデジカメとしてみれば、プラス面は十分にある。

iOS7は、大幅なユーザーインターフェイスの刷新を行ない、iOS6からの進化はユーザーにとっても文字通り目に見えて理解しやすい。そのOSの進化に対しては、器であるハードウエアもまた、もっと目に見えてわかりやすいカタチを与えるべきだったのでは? と感じる。

つまり、僕の総合的な評価を言えば、iPhone5をiOS7にアップデートしてしまえば、あえてiPhone5sを購入するまでもなかったのかもしれない、というネガティブなものである。もちろん熱心なAppleファンの多くは、新しいMacが出れば即買いしてきたわけであり、その同じ流れとみれば、iPhone5sの評価をこれ以上云々する必要はないかもしれない。

しかし、iPhoneはMacと同じであってはならない商品だ。Macをポルシェになぞらえたのは、ほかならぬスティーブ・ジョブズ自身だったが、世界中のスポーツカーファンの尊敬を集めるポルシェはいまとなっては独立性を失い、VW(フォルクスワーゲン)の子会社だ。MacやiPhoneといったスーパーブランドはたしかに熱狂的なファンを惹き付けるが、結局フェラーリはフィアット、ランボルギーニはポルシェと同じVWの子会社である。Appleもモバイル市場でのシェアを失い続ければ、同様の立場に陥る可能性があるのだ。

個人的には、MacやiPhone、iPadというブランドにフォーカスしてコアファンの支持を維持しつつ、Amazonの子会社にでもなる、という道もありではないか? と思うが、その選択をしたくないのであれば、現在のAppleの経営陣の戦略はまちがっている。世界がAppleに期待しているのはサプライズであり、誰もが予想できたり事前に漏れ知らされる順当な進化を待っているわけではない。

iPhone5cは単にiPhone5にカラーバリエーションをつけただけの、目先を少し変えただけの商品だし、iPhone5sもまた凡庸な印象を拭えない。さきほど進化した、と書いたiOSでさえ、じつはUIの変化でありこそすれ、アーキテクチャとしてMac OS 9からOS Xに進化したときのような根本的な設計の革新があったわけでもない。

iPhoneつまりスマートフォンという商品がこれ以上工夫をしようがないとすれば、まったく新しい商品を生み出すほかない。つまりAppleがやるべきは、誰もが驚かされる新製品を発表し続けるか、それともAndroidに奪われ続けるシェアを奪回するための作戦を明示することだ。

サプライズを続けるための作戦をどう取るかはさておき、もしシェア奪回を考えるなら、新興国市場に対してはiPhoneという名称ではなく、別ブランドの廉価版iOSデバイスを出せばいいと僕は考える。iPhoneは高級機、低価格機は別ブランドにしたほうがいい。