J1が2015年より2ステージ制移行…そのメリット、デメリットとは?
17日、Jリーグは2015年度からJ1を前後期に二分し、その後にポストシーズンを実施する2ステージ制導入を正式決定した。
同制度導入をめぐる経緯は、この『サッカーキング』を含めた各種メディアで報じられてきたとおり。ただ、あまりJリーグに興味のない層からすると、こうしたニュース報道の意味が理解しがたいものだったようだ。先日、とある飲み会で非サッカー畑の友人から素朴な疑問を次々にぶつけられ、そのことを痛感した。この記事では、2ステージ制導入のメリットとデメリット、導入によって予想されることをまとめてみたい。
かつてJリーグは2ステージ制だった。そもそも開幕当初から2ステージ制だったのは何故なのか、またそれが2005年から何故1シーズン制に変わったのかという「何故」を考えるのが、メリットとデメリットを考えるうえで分かりやすいように思う。
Jリーグ開幕当初、サッカーは明確にマイナースポーツであり、ファンを自然につかめるコンテンツだとは考えられていなかった。そこで追求されたのは「わかりやすさ」である。たとえば引き分けの廃止(延長戦およびPK戦の導入)はその典型例で、チーム数を10に絞り込んだのもファンに分かりにくくなるのを避けることが狙いの一つだった。2ステージ制もそうした施策の一つ。全10チームによるホーム&アウェーのリーグ戦なので、1ステージは計18試合(合計36試合)。夏を前に前期王者が決まり、冬に後期王者が決まって、その後にチャンピオンシップが行われる方式だった。2度の優勝決定という盛り上がりどころを作ることでポジティブなメディア露出を増やしつつ、誰にとっても分かりやすい「日本一決定戦」を用意して、関心を煽る。メリットはこの2点に集約されると言ってもいいだろう。露出増によるスポンサーメリットの創出も、それに付帯していたことである。また、開幕当初はステージごとにスポンサーが付いており、第1ステージがサントリーシリーズ、第2ステージを日本信販・NICOSシリーズと称しており、このスポンサー収入も大きかった。
当初からこうした2ステージ制へクエスチョンマークを付ける意見は根強くあった。前期王者が後期にモチベーションを喪失することに加えて、欧州のサッカー先進国から大きく逸脱したレギュレーションに対する後ろめたさのようなものもすでにあった。加えてチーム数の増加によって前後期2回戦ずつ(計4回戦)を維持するのが日程的に困難となり、1996年には早くも2ステージ制を放棄し、1シーズン制を実施している。だが、降格制度も存在しない中での1シーズン制は中だるみと消化試合の劇的な増加を招いてしまい、リーグの盛り上がりは急減。慌てて翌1997年から2ステージ制へ回帰することとなった。ただし、17にまで増えたチーム数を踏まえて、ステージごとのホーム&アウェー制は放棄。1回戦総当たりでステージ王者を決める、少々いびつな形式が導入されることとなった。
この形式は引き分けの導入といった小さな施策はあったものの、最終的には1999年から16チームによる2ステージ制という形で定着することになる。ただ、この頃になると1998年度の横浜フリューゲルス消滅が象徴するように、Jリーグ全体の減退感は隠しようがなくなっていた。2000年には柏レイソルが年間の総合勝ち点で1位になりながら、前後期ともに優勝を逃してチャンピオンシップに出場できず。規定上「3位」になるという現象も発生し、「2ステージ制廃止論」が力を持ち始めた。2002年にはジュビロ磐田が初めて両ステージ制覇を実現し、チャンピオンシップが開催されないという事態が生じることとなった。磐田の戦績は純サッカー的には快挙だったものの、放送予定だったTV局が不信感を持つ事態でもあった。
そして2005年、Jリーグはついに2ステージ制の撤廃、1シーズン制の導入へ踏み切る。掲げた大義は「世界基準」だったが、経営的にはJ1のチーム数を18に増やしてリーグ戦の試合数を増加させることで、チャンピオンシップ廃止による収入減を補うという考えだった。当時はチャンピオンシップに縁のないクラブにとってはむしろ恩寵であるとさえ考えられていた。ただ、チャンピオンシップの廃止によって「分かりやすい試合」を失った代償は確かにあった。チャンピオンシップという「視聴率を取れるJリーグの試合」がなくなったことで地上波TV局での露出は急減していく。とりわけスポンサーメリットの低減によるダメージは、じわじわとJリーグを痛め付けることとなった。実際、2ステージ制導入を決めた理事会の記者会見において、Jリーグ側は1シーズン制を維持することで「来シーズン、Jリーグの収入が10億円単位で減る試算があった」と、リーグスポンサー撤退の恐れがあったことを示唆。決断に踏み切った背景を明かした。スポンサーの立場になってみれば、露出する場の乏しいJリーグに億単位の資金を投じ続けることについて意義が見いだせなくなっていたということだろう。
こうして歴史的経緯を書き出していくと、何となく2ステージ制のメリットとデメリットが見えてきたのではないだろうか。メリットは優勝争いの機会拡大とチャンピオンシップという「分かりやすい試合」の創出による露出の拡充。それによって新規顧客の獲得を図りつつ、スポンサーメリットを創り出せることは大きい。一方、デメリットは年間勝ち点1位のチームが日本一になれない可能性が生まれることでの公平性の喪失、そして過密日程だ。かつて16チームで行われていた2ステージ制のリーグ戦が18チームで行われるということは、その分だけ試合が増えるということ。必然的に週末だけで日程を消化することは不可能となり、平日開催の試合は急増することになる。平日開催の増加はシーズンチケットの買い控え、観客数の減少に直結する問題だけに、大きなデメリットと言える。さらに新しい形でのチャンピオンシップは年間勝ち点1位のチームと各ステージ2位のチームにも出場のチャンスを与えており、ポストシーズンの試合数も増えている。スケジュール問題は、ACLや日本代表の国際大会にも絡んで、2ステージ制導入において大きな課題として残りそうだ。
文●川端暁彦
同制度導入をめぐる経緯は、この『サッカーキング』を含めた各種メディアで報じられてきたとおり。ただ、あまりJリーグに興味のない層からすると、こうしたニュース報道の意味が理解しがたいものだったようだ。先日、とある飲み会で非サッカー畑の友人から素朴な疑問を次々にぶつけられ、そのことを痛感した。この記事では、2ステージ制導入のメリットとデメリット、導入によって予想されることをまとめてみたい。
Jリーグ開幕当初、サッカーは明確にマイナースポーツであり、ファンを自然につかめるコンテンツだとは考えられていなかった。そこで追求されたのは「わかりやすさ」である。たとえば引き分けの廃止(延長戦およびPK戦の導入)はその典型例で、チーム数を10に絞り込んだのもファンに分かりにくくなるのを避けることが狙いの一つだった。2ステージ制もそうした施策の一つ。全10チームによるホーム&アウェーのリーグ戦なので、1ステージは計18試合(合計36試合)。夏を前に前期王者が決まり、冬に後期王者が決まって、その後にチャンピオンシップが行われる方式だった。2度の優勝決定という盛り上がりどころを作ることでポジティブなメディア露出を増やしつつ、誰にとっても分かりやすい「日本一決定戦」を用意して、関心を煽る。メリットはこの2点に集約されると言ってもいいだろう。露出増によるスポンサーメリットの創出も、それに付帯していたことである。また、開幕当初はステージごとにスポンサーが付いており、第1ステージがサントリーシリーズ、第2ステージを日本信販・NICOSシリーズと称しており、このスポンサー収入も大きかった。
当初からこうした2ステージ制へクエスチョンマークを付ける意見は根強くあった。前期王者が後期にモチベーションを喪失することに加えて、欧州のサッカー先進国から大きく逸脱したレギュレーションに対する後ろめたさのようなものもすでにあった。加えてチーム数の増加によって前後期2回戦ずつ(計4回戦)を維持するのが日程的に困難となり、1996年には早くも2ステージ制を放棄し、1シーズン制を実施している。だが、降格制度も存在しない中での1シーズン制は中だるみと消化試合の劇的な増加を招いてしまい、リーグの盛り上がりは急減。慌てて翌1997年から2ステージ制へ回帰することとなった。ただし、17にまで増えたチーム数を踏まえて、ステージごとのホーム&アウェー制は放棄。1回戦総当たりでステージ王者を決める、少々いびつな形式が導入されることとなった。
この形式は引き分けの導入といった小さな施策はあったものの、最終的には1999年から16チームによる2ステージ制という形で定着することになる。ただ、この頃になると1998年度の横浜フリューゲルス消滅が象徴するように、Jリーグ全体の減退感は隠しようがなくなっていた。2000年には柏レイソルが年間の総合勝ち点で1位になりながら、前後期ともに優勝を逃してチャンピオンシップに出場できず。規定上「3位」になるという現象も発生し、「2ステージ制廃止論」が力を持ち始めた。2002年にはジュビロ磐田が初めて両ステージ制覇を実現し、チャンピオンシップが開催されないという事態が生じることとなった。磐田の戦績は純サッカー的には快挙だったものの、放送予定だったTV局が不信感を持つ事態でもあった。
そして2005年、Jリーグはついに2ステージ制の撤廃、1シーズン制の導入へ踏み切る。掲げた大義は「世界基準」だったが、経営的にはJ1のチーム数を18に増やしてリーグ戦の試合数を増加させることで、チャンピオンシップ廃止による収入減を補うという考えだった。当時はチャンピオンシップに縁のないクラブにとってはむしろ恩寵であるとさえ考えられていた。ただ、チャンピオンシップの廃止によって「分かりやすい試合」を失った代償は確かにあった。チャンピオンシップという「視聴率を取れるJリーグの試合」がなくなったことで地上波TV局での露出は急減していく。とりわけスポンサーメリットの低減によるダメージは、じわじわとJリーグを痛め付けることとなった。実際、2ステージ制導入を決めた理事会の記者会見において、Jリーグ側は1シーズン制を維持することで「来シーズン、Jリーグの収入が10億円単位で減る試算があった」と、リーグスポンサー撤退の恐れがあったことを示唆。決断に踏み切った背景を明かした。スポンサーの立場になってみれば、露出する場の乏しいJリーグに億単位の資金を投じ続けることについて意義が見いだせなくなっていたということだろう。
こうして歴史的経緯を書き出していくと、何となく2ステージ制のメリットとデメリットが見えてきたのではないだろうか。メリットは優勝争いの機会拡大とチャンピオンシップという「分かりやすい試合」の創出による露出の拡充。それによって新規顧客の獲得を図りつつ、スポンサーメリットを創り出せることは大きい。一方、デメリットは年間勝ち点1位のチームが日本一になれない可能性が生まれることでの公平性の喪失、そして過密日程だ。かつて16チームで行われていた2ステージ制のリーグ戦が18チームで行われるということは、その分だけ試合が増えるということ。必然的に週末だけで日程を消化することは不可能となり、平日開催の試合は急増することになる。平日開催の増加はシーズンチケットの買い控え、観客数の減少に直結する問題だけに、大きなデメリットと言える。さらに新しい形でのチャンピオンシップは年間勝ち点1位のチームと各ステージ2位のチームにも出場のチャンスを与えており、ポストシーズンの試合数も増えている。スケジュール問題は、ACLや日本代表の国際大会にも絡んで、2ステージ制導入において大きな課題として残りそうだ。
文●川端暁彦