花巻東vs済美 「あえて記す」済美の課題と安樂報道への猛省
大谷 翔平(現:北海道日本ハム)の豪腕に最も近くで接してきた花巻東打線による、立ち上がりから済美・安樂 智大(2年)のストレートに全く振り負けないスイング力。終盤のミラクルに近い済美の粘り込み。サヨナラ負けの危機を乗り越え、延長戦で再び4点を突き放した花巻東の集中打。その裏、これまでの鬱憤をバットに乗せたかのような安樂の超ド級3ラン。高校野球ファンにとってはこれ以上ないスリリングな展開だった。
ただし、である。あえて愛媛側・済美側に立ってこの試合、今大会を総括すると、課題ばかりが浮かび上がる2試合であったことは間違いない。
まずは打線。危機回避的に花巻東が繰り出す左腕陣に対し、三重戦に比べ狙いが定まらず。かといって7回までファウル等で球数を稼いだのは4回裏に12球を投げさせた6番・光同寺 慎左翼手(3年)のみ。ベンチが攻略策を授ける終盤までに、あまりにも工夫がなさ過ぎたことが花巻東に最後の余裕を与える一因となった。
花巻東2番・千葉 翔太中堅手(3年)対策として上甲正典監督が打った町田 卓大中堅手(3年)を三遊間前に配する奇策も空振りに終わった感は否めない。初回は二遊間を破られ、8回表には無人のライトに引っ張られて三塁打を喫し、ノーマルに戻した延長10回には先頭打者として左前に運ばれ、4得点の口火を切られることに。「策に溺れた」と言われても反論できない散々な結果に終わった。
そしてやはり彼について記さないわけにはいかない。2試合・19イニングで14失点・自責点13・防御率6.16。40回3分の1で失点5・自責点3・防御率0.67という好成績を残した愛媛大会の片鱗すら見せられなかった安樂 智大のことだ。10回表の183球にこの日最速152キロを出して14個目の三振を奪い、自らの本塁打につなげた気迫は大いに評価できる。が、1回から右腕・山口 和哉(2年)、左腕・宮田 優輝(2年)代わる代わるブルペンとベンチを往復し、中盤以降は投球練習がキャッチボール化しているのを見ていると体調の悪さは明らか。安樂だけのことを考えれば、これ以上の済美上位進出はあまりに過酷すぎた。
その他にも球速を上げようとすると明らかに力みが入る投球フォーム。配球の誤り。愛媛大会と異なる点を挙げれば枚挙に暇がない。正直、彼は体も頭も疲労していた。
そして「心」の部分も。自らもそこに加担していることを認め、非難されることを覚悟で記せば、投手にとって最もデリケートさを要するブルペンでの投球練習時にすぐ後ろでTVカメラが回るなど、今回の安樂報道合戦は常軌を逸している部分が多々あった。自らへの警鐘と猛省も込め、彼には大会後すぐ高校日本代表チームが参加することになっている「第26回IBAF・18U世界野球選手権」(台湾・台中市開催)の代表召集回避を含め、特に心の休養を与えてほしいと切に願う。
第2試合で明徳義塾が大阪桐蔭を破ったことにより、夏の甲子園勝率1位の座はわずか1厘差(愛媛115勝62敗1分・勝率.64971、大阪155勝84敗・勝率.64853)で堅持した愛媛勢。ただ、「スターシステムありき」の勝利至上主義のままでは、安樂卒業後には根無し草が残るだけ。全ての愛媛県高校野球にかかわる者は今回の早期敗退をその暗示と捉えなければならない。
(文=寺下 友徳)