弘前学院聖愛vs沖縄尚学 勝敗を分けたのは弘前学院聖愛の積極的走塁
両校とも投手に決定力を欠いているということでは似た者同士である。地区大会では弘前学院聖愛が5人の投手を起用し、沖縄尚学が3人。当然、継投策が大きなカギを握ると思われたが、1回戦では沖縄尚学が3人の投手を起用したのに対して、弘前学院聖愛は小野 憲生(3年・右右・182/72)が玉野光南を4安打完封に退けた。その勢いの差がこの試合にも反映された。
沖縄尚学の先発・比嘉 健一朗(3年・左左・169/57)は1回戦同様、ストレートにキレがない。1回裏には2本の長短打と死球で1点献上し、点こそ与えなかったが2回は3安打を打たれ、3回は1安打、1四球を与えてフラフラ状態。
弘前学院聖愛が2、3回に無得点に終わった経過を説明しよう。2回は2死一、二塁から2番藤元 蓮(3年・二塁手・右投左打・172/64)が中前打を放つが、センターからの好返球で二塁走者がホーム憤死。3回は2死一、三塁のチャンスを作るが三塁走者がスクイズのサインが出たのかホームスチールをやるようなタイミングで塁を離れ、挟殺プレーの末に憤死。
弘前学院聖愛の拙攻で命を長らえた比嘉も、4回の1死二、三塁の場面で1番外川 和史(2年・左翼手・右右・177/77)に2点二塁打を打たれたところで降板した。2番手で登板した宇良 淳(3年・右左・171/65)も2死三塁の場面で3番一戸 将(3年・一塁手・左左・174/83)にタイムリー二塁打を打たれ、結果的にこれが決勝の4点目になった。
弘前学院聖愛に特徴的だったのは思い切りのよさだ。沖縄尚学の捕手・具志堅 秀樹(3年・右右・168/73)は1回戦の福知山成美戦で、二盗を阻止したときの二塁送球タイムが1.91秒を記録した強肩である(3回表)。データとして当然頭の中に入っているはずだが、盗塁2、盗塁失敗2と企図数は4回にものぼった。それ以外でも2回には前述したホーム憤死、5回には1年の佐々木 志門(遊撃手・右右・172/76)が投手のけん制球に刺される場面があり、足で沖縄尚学守備陣に揺さぶりをかけようという狙いは十分見えた。
考えてみればこの弘前学院聖愛の思い切りのよさは、ここ数年全国を席巻してきた沖縄の野球である。06年に大嶺 翔太の投球が話題になった八重山商工、08年春夏の大会に出場した沖縄尚学、浦添商、そして10年に春夏連覇した興南と、コンパクトに振り抜く強打と全力疾走は沖縄が率先してやってきた野球に他ならない。その野球を弘前学院聖愛にやられた。
全力疾走の基準、打者走者の「一塁到達4.3秒以内など」をクリアしたのは両校とも1人1回と物足りなかったが、塁に出てからの走者の目的意識に差があったということだろう。沖縄尚学は盗塁企図が1回もなく、記録に現れる走塁ミスもなかった。静かに試合に入り、静かに試合を終えたという印象である。
個人に目を向けよう。沖縄尚学では1番諸見里 匠(3年・遊撃手・右右・170/68)に注目した。第3打席までは一塁ゴロ、三振、三直と結果が出ていない。8回表に無死二塁の場面で打席が回り、3球目の外角ストレートをセンター前に打ち返して走者を迎え入れるのだが、強いチームなら必ずと言っていいほど敢行するホーム返球のスキを突く二塁進塁がなかった。このあたりにチーム全体の迷い、ゲームに集中できない何かがあったのかなと想像する。
弘前学院聖愛では3番一戸がよかった。走っては4回の三盗、打っては1回のタイムリー、4回のタイムリー二塁打と2打点を挙げる活躍で文句ない。打撃の内容に注目すると、今大会目立ったのは変化球を打つときの前さばきだ。
以前にも書いたが、ここ数年ボールを捕手寄りで捉えるミートポイントが高校球児に蔓延していた。それは悪いことではなく、バッティングの高みをめざそうとする選手なら避けて通れない重要なミートポイントである。しかし、この打ち方で誰もが理想的な打球が打てるわけではない。ヒットを打つのが難しいポイントと言っていいだろう。どん詰まりのゴロやフライが量産されたシーンを思い返してもらいたい。それはプロでもモノにするのが難しいミートポイントなのである。
今年は一転して前さばきが広まった。「前さばきで打ったほうがヒットになる確率は高い」とは以前ブログで書いた。しかし、将来プロ野球に挑戦したいと思っている選手なら話は別で、捕手寄りのミートポイントで打つことを恐れてもらいたくない。そのミートポイントで打つことを実践していたのが弘前学院聖愛の3番一戸である。
1回の右前タイムリーは、1ボールからの内角スライダーを捕手寄りで捉えて強引に押し込んでライト前に落としたもの。4回のタイムリー二塁打はやはり2球目のスライダーをおっつけて左中間に放った一打で、捕手寄りで捉えたもの。ちなみに、1回戦の玉野光南戦でも4回表、右中間にソロホームランを放っている。ちょっと見には差し込まれているようだが押し込んで打っているので打球が伸びた。大きな話題になっていないが、注目してもらいたい強打者だ。
(文=小関 順二)