一見優しく淡い青春時代を描いた作品、と見せかけて実はとんでもなくスラップスティック。なのにノスタルジック。『みつあみこ』は高校生作家が描いた、不条理ギャグであり、青春賛歌でもある不思議な作品。この会話に入りたいけど絶対入れない。

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ぼくが人生において悔しいことの一つ。
それは女子中高生の会話が理解しきれないことです。
そりゃ全くわからないわけじゃないですよ。
でもものすごい勢いであっち行ったりこっち行ったりする子、いるじゃない。それでクスクス顔を合わせて笑うじゃない。
僕は、一生かかってもあの世界には入れない気がするよ。

白井もも吉『みつあみこ』は、女の子達の会話をそのままマンガにした作品。
表紙だけ見ると少女漫画的で、一見ガールズラブのにおいすらしますが、内容は一切そういうものではありません。
黒髪でみつあみの押琉子(おし るこ)と、学校生活に不安を感じている薄い色の髪の少女門部蘭(もんぶ らん)。
名前からして、なんだこれ。まあでもマンガだしね。わからんでもないですよ。

この二人が出会って成長していくちょっといい話か、と導入見せかけます。
ところが、繰り出される会話がほぼすべて、理解できない。
ちょっと抜き出します。

るこ「うーん、趣味かあ……らんちゃんは何かやってみたいことある?」
らん「私? つちふまずに土を踏ませたい」
るこ「採用」

採用すんなよ。
まあ、ギャグマンガだしね。あるよね。

るこ「あいつらぷにゅっぷにゅだもんねー!!固さが足りぬ!」
らん「………いや……私的にはむしろ……、土を踏んでなおぷにゅぷにゅしていられるだけのポテンシャルが、お前にはあるのか?……って思うのね」
るこ「カ……カッコエエー!!!」

わー、まだ続くのこの話。
でもなんだろう、このツッコミ不在感、なさそうだけどありそうで、こう、なんかこう。

るこ「やだもー!!あまりにもカッコよすぎて自分を見失いそうになっちゃったじゃーん!!」
らん「あはははは」
るこ「うふふふふ」
らん「ぷにゅぷにゅ」
るこ「やだもーーー!!!」

ごめん、もうついていけない……。
ついていけないけど、なんだろう、笑っていいのかよくないのか、二人の空間を邪魔しちゃいけない気がする。
「日常系」にも「不条理系」にも属しきっていない、オチもない非常に珍妙なマンガです。

なのに、読み終わった後妙に懐かしく感じるのがすごいんだよ。
やたらセンチメンタル。一コマ一コマがボケなんですが、不思議に愛おしい。
もろに女子中高生の「友達といて楽しかったー」感覚そのままです。
どうしようもなくこのナンセンスな会話をする女の子たち、うらやましい。

作者は高1でデビュー、高2から高3で連載していました。
その年代じゃないと描けないだろうなあと、心から納得してしまいます。
もう描いている作者の、高校時代のふわっとした感覚がそのまま塗り込められている。

作者が初投稿した中学生時代のマンガも載っています。
内容は、更にナンセンスになっています。
この変化、うまくなって技術を学んだだけじゃない。中学生時代の感性があったからこそのナンセンス。うまいわけじゃないんですが、実に味があります。

この作者はセンスいいのでどんどん育つと思います。
でもこの学生時代感覚があまりにも新鮮すぎるので、大人びちゃったらもったいないなあとワガママを言いたくなる。
是非このセンスを保ちながら、次の作品を生み出してくれることに期待します。

はあ。ぼくも女子高生になって、無意味なことにアハハウフフって笑いたい。


白井もも吉『みつあみこ』

(たまごまご)