『粘着! プロ野球むしかえしニュース』(山田隆道著/宝島社)
「巨人に帰りたい」発言をしていた小林繁、好感度抜群だった落合博満が突然わがままになった日、140キロの球がコワくなって退団したレスカーノ……などなど、懐かしくて笑えるプロ野球ニュースを一冊に。

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「なお東映の張本選手は四回左前打し2000本安打を記録した」(日刊スポーツ 1972年8月20日付)

記事の最後に、取ってつけたような一文。
えぇぇ、こんな小さな扱いでいいの!? 2000本安打だよ! あの「安打製造機・張本勲」の偉大な記録だよ!!

『粘着! プロ野球むしかえしニュース』(山田隆道・著)は、スポーツ紙、週刊誌、野球専門誌で過去に掲載された記事をむしかえし、選手や球界、そしてときにメディア自身の恥ずかしい過去をさらしてしまう、読者にとってはただただ愉快な一冊である。
その第一章でイキナリさらされていたのが「パ・リーグとスポーツ新聞の希薄すぎる関係」であり、球界の御意見番もかつてはこんな惨めな扱いだった、という事実だ。
昨今、川崎宗則のアメリカでの報道(人気ぶり)に「喝!」を入れ、さらにそれをダルビッシュがむしかえして話題になっている、ハリさんこと張本勲。それこれも、自身の過去の小さすぎる報道履歴から来たやっかみだったのかも……と考えると少し可愛く思えてくる。
そして、「なおマ」の原型がこんなところにあったとは驚きです。

本書では他にも
「工藤公康がヤンチャな新人類だった頃」
「デブ選手の最高傑作! ドカベン香川の悲喜劇」
「新聞報道でむしかえす落合博満の歴史」
「世にも怪しい沢村栄治伝説」
「野村克也の変説 あのときノムさんは若かった」
「星野仙一が見せた凄まじい自己顕示欲」
……などなど、プロ野球の様々な歴史・事件簿を、その時メディアがどう報じていたのか、という視点から改めて検証していく。

プロ野球の楽しさは、試合やプレーのみにあらず。
その内容をどうメディアが報じ、さらにそれをファンがどう受け止めて話の種にするか、までがワンセット。
メディアやファンの存在まで含めてこそのプロ野球である、ということを改めて再認識させてくれる一冊だ。

ファン、といえば芸能界にも多いプロ野球ファン。
なかでもファンの数が多いのが大正義・読売ジャイアンツであり、代表格はSMAPのリーダー中居正広だろう。
本書ではそんな中居君についての黒歴史もむしかえされている。

「『月刊タイガース』200号おめでとうございます。湘南出身なのにタイガースファンのSMAP・中居正広です」(月刊タイガース 1994年10月号)

1994年といえば、SMAPが「Hey Hey おおきに毎度あり」で初のオリコン1位を獲得し、いよいよここから芸能界での地位を固めようかという大事な時期。乗っかれるモノには乗っかろうという商魂逞しさが感じられます。

この本、無神経に、面白可笑しく過去をほじくりかえしているだけのように思えるが(いや、基本そうなんだけど)、深く読みこんでいくと、スポーツメディアの変遷を探ることもできる。
70年代〜80年代における、パ・リーグ情報の圧倒的な少なさと巨人偏向報道の数々。冒頭で紹介した張本勲2000本安打報道などがその典型例だ。
ところが、突如としてパ・リーグの話題・報道が増えた時代があると著者は指摘する。それが1986年の清原和博・西武ライオンズ入団であり、そこから始まる西武の黄金期であるという。

《振り返ってみると、パ・リーグと新聞の関係とは「清原前・清原後」で明らかな違いがあるわけだ。清原前のパ・リーグ戦士たちはまるで紀元前の人類のように現存資料の量が少なく、清原後のそれとは雲泥の差がある。パ・リーグ黎明期を支えた大功労者が野村克也であり稲尾和久であると言うのなら、昨今のパ・リーグ隆盛の父は清原和博だ。清原と桑田のドラフト事件に震撼した85年の秋、あの衝撃こそが現存の球界勢力地図と新たなセパの秩序を生んだビックバンだったのかもしれない》

早速、今夜の居酒屋ベースボール談義で披露してみてはいかがだろうか。
そしてもうひとつ。本書の中で、私が今もっとも話の種にしたいニュースがある。
それが、25年前(1988年)の今日6月27日が、阪神のランディ・バースが解雇され、近鉄のリチャード・デービスが大麻事件で国外追放となり、そのデービスの穴を埋めるべく、近鉄が中日の二軍でくすぶっていたラルフ・ブライアントを金銭トレードで獲得した、という「プロ野球助っ人史」に残る記念すべき日だ、ということ。
このトレードが、その年の秋に生まれる「10・19」を演出し、パ・リーグが一番熱かった日になるだなんて、ちょっと感慨深い。
(オグマナオト)